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第22話
僕とお兄ちゃんは無言なまま、病院を後にし、帰路の為の駅へと着いた。
平日の昼過ぎともあり、人は少ない。
僕は年中ドジな兄が、突然、完璧になり、心配と不安だった筈なのに....。
また別の問題が浮上し、内心はどんよりしているが努めて笑顔で、駅に着くと自販機の前に立った。
「お兄ちゃん、なにがいい?」
「んー...カフェオレ」
人差し指でカフェオレを押し、た、つもりだったが、何故か、隣のおしるこを押してしまった。
春なのに、なんで、おしるこが入ってるんだー!この自販機!
....おしるこの売れ行きがいいのかもしれないけど、なにより、僕は自分のドジに動揺した。
「ご、ご、ごめんね、間違えちゃった」
てへへ、と笑いながら、僕はまた、おしるこを押してしまった....。
ボタンに人差し指を置いたまま呆然となっている僕に、
「え、あー、お、俺、一度、おしるこ、飲んでみたかったから、ちょっとラッキー」
お兄ちゃんがすかさずフォローなのか明るい声。
「あ、熱っ!」
ポカポカ陽気な中、熱いおしるこを口に含んだ瞬間、
「あー、美味いなあ」
....めちゃくちゃ甘ったるくて、しかもこの陽気なだけに汗かきそうなのに。
お兄ちゃんは笑顔でおしるこを飲んでいる。
ベンチの隣で僕もおしるこを啜る....甘い。
「お前もヘマするんだな」
「う、う、うん....」
お兄ちゃんのファーストキスについて聞き損ねたけど、即座にまだだよ、とは返って来なかった。
僕はお兄ちゃんに悪い虫がついたり、変な男に騙されないよう、恭一さんたちにも協力して貰い、頑張ってきたつもりなのに....。
自分の力不足を感じた。
そして、
(....ファーストキス、どんな人だったんだろ)
おしるこのように甘い....?
ぶんぶん、僕は首を振り、思考を投げ捨てた。
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