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第27話
お兄ちゃんがしっかりして来て、三日目の朝。
僕、奏斗はなんだか胃がキリキリ痛んでいた。
母に、
「...胃薬ちょうだい」
こっそり胃薬を貰い、飲んだ。
今朝の兄も、
「おはよう、奏斗」
と爽やかな笑顔。
非の打ち所のない兄がいる。
ネクタイを結び直す必要も、
「寝癖、ついてるよ」
「悪い悪い、ありがとう、奏斗」
と、苦笑するあの兄の可愛い笑顔はもう見れないというのか....。
休み時間、昼休みも兄のクラスに出向いた。
秘かに、恭一さん、大貴さん、慶太さんは平然を装いながら隙あらばファーストキスの相手がわかるか、目を光らせている。
抜け駆けし、しかも、秘密にしていた兄が3人は許せないらしい。
実は自分たちより早くにファーストキスを済ませたのか、と気に食わない、だなんて、僕は知らなかった。
そのまま、今日、一日の授業が終わろうとしている。
授業中も以前ならば、兄のしでかしたドジをLINEで教えて貰っていたが...もう三日ない。
....寂しい。
不意に浮かんだ言葉。
そうか、僕は寂しかったんだ...突然、兄がしっかりし、まるで他人を見ているかのようで。
胃の痛みを堪えながら、最後の授業の体育でのサッカーの為、僕は運動着のジャージで、グラウンドへと向かっていた。
ふと、視線を向けた先。
制服姿でなにやら本を読みながら歩く兄の姿が目に止まった。
ここは中庭だが、兄も体育なのだろうか、向かう先は体育館。
「お兄ちゃん!」
こんなところで出くわすなんて、と僕は嬉しさのあまり大きな声を掛けた。
と同時に兄の歩くすぐ先に大きな噴水があることも示唆する声でもあった。
「え?」
突然、呼び止めた僕が悪かったのか、前を見ずに読書しながら歩いていた、お兄ちゃんが悪かったのか。
お兄ちゃんは噴水の縁に足を引っ掛け、本を持ったまま、噴水の中に見事にダイブした。
周りが、シン、と静まり、噴水に飛び込んだ兄に唖然となり目を見開いている中、慌てて駆け寄る僕。
兄は噴水の中で全身、ずぶ濡れで呆然と座り込み、読んでいた本はぷかぷかと水面に浮いている。
「おかえり!お兄ちゃん!」
僕は泣きそうになりながら、きょとん、としている兄に手を差し伸べた。
「た、ただいま....?」
兄の水で濡れた手が僕の手に重なり、僕は噴水の中で尻餅をつく兄を引っ張り上げた。
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