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第30話

ようやく、僕のパンツを受け取ってくれたお兄ちゃん。 兄の優斗は、と言うと、暖かい生肌を感じるボクサーを履くや否や、その暖かさに感動し思わず、立ち尽くしている。 (...暖かい...。まるで、奏斗の優しさに包まれているかのよう...) 着替えは順調かな?と、背中を向けていた僕はこっそりお兄ちゃんを盗み見。 お兄ちゃんと来たら、僕のパンツを履いたまま、呆然としている。 「お兄ちゃん、は、早く服、着て!」 パンツ一枚の兄の姿に僕はボンッと顔から火を噴きそうだった。 「ふ、服じゃなかった、じゃ、ジャージ!早く着替えて、家に帰ろ、お兄ちゃん、あ」 その前に兄が怪我していないか、確認しなきゃ。 奏斗の声に我に返り、優斗はようやくジャージに身を包んだ。 その間、奏斗はしっかり、スマホで時間確認。タイムリミット、約20分。 「お兄ちゃん、座って!」 再び、優斗を椅子に座らせると、 「...どっちの脚だっけ」 あー、時間がないし、煩わしい!両脚、確認しよう! 兄の足元を捲り上げ、右脚の脛の一部が紫色に変色していることに気づくや否や。 無駄のない手つきで、鞄から応急処置セットのポーチを取り出すと、湿布をハサミで手際よく切り、打撲したのであろう、兄の脛に張り、ポーチからガーゼを取り出し、その上に貼り付けた。 留め具がテープになっている包帯もあるが、うーん、と暫し悩み、ガーゼを剥がし、包帯を巻いた。 「うん!完了!」 額に滲む汗を手の甲で拭いた。 「凄いな、相変わらず、用意がいいんだな、奏斗」 「ま、まあね」 子供の頃から斜めがけしたショルダーの丸いポーチの中には、いつ優斗がなんたるドジをしようが、と、備え、絆創膏、マキロ○、湿布、包帯、ガーゼ、軟膏を欠かさず入れていた。 兄と遊ぶ日は必ず、そのポーチを斜めがけにし、危なっかしい優斗の手を引いた。 奏斗がここまで準備するようになったのは思い出しても虫唾が走る、忌々しい過去があるが、その後はその過去のお陰と言ってもいい程、役に立ってきた。 (...忘れたつもりだったのに....) ギリリ、と奏斗は奥歯を噛み締めた。

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