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第33話
帰宅するなり溜めたお風呂に兄の優斗が入っている間、奏斗はファスナーを開け、応急処置セットをカーペットに並べた。
不足した湿布とガーゼを入れ、後は...、と宙を仰ぎ、ポケットティッシュ、ウェットティッシュ、綿棒も加えよう、あっ、使ったタオルも後で洗濯機に入れなきゃ、と真新しいタオルを二枚、鞄に詰めた。
後は...ふと、今日の出来事から学び、予備のパンツも必要かなあ、と唸る。
帰りに母さんに買ってきて貰うよう、連絡しよう、と。
パート中の母にLINEを入れた。
とりあえずこれでいいかな、とファスナーを閉め、ポーチを掲げ、見つめる。
もうひと回り大きめなサイズに変えてもいいかも、今度、買いに行こう。
そして、奏斗は再び、鼻歌をふんふん歌った。
「奏斗。お風呂、ありがと。まだ温かいから奏斗も入りなよ」
「うん」
「あ、あの、ラベンダーの入浴剤、いいな。なんか癒された、ありがとう」
「どういたしまして。じゃ、僕も入ろっ」
バスタオルを首に掛けた、部屋着の優斗の隣を鼻歌を歌いながら通り過ぎ、その姿を優斗は笑顔で見送った。
優斗の頑張りも、本人も遂には疲れ果て、翌日の朝には箸を逆さのまま、食事をしており。
「お兄ちゃん、箸、逆だよ」
にっこり奏斗に示唆されるまで優斗は気がつかなかった。
「あっ、ホントだ。朝から恥ずかしいな」
苦笑する可愛らしい兄に、ようやく、平常が戻った、と安心しながら、奏斗は頬を綻ばせた。
休み時間、兄のやらかしたドジが恭一、大貴、慶太からそれぞれ、教えられ、奏斗の胃は痛みを忘れた。
かのように見えた。
自宅前になにやら人がいるのを一緒に下校した優斗、奏斗は互いに目を合わせ、
「誰だろ?」
優斗より背の高い、二人より少し年上のような男性は二人を目に留めると、
「久しぶり。優斗、奏斗」
にこやかな笑顔を見せた。
その笑顔に即座に気づき、反応したのは、奏斗だ。
優斗は、誰だろう?と言う顔でぼんやり相手を見つめている。
隣の奏斗は、ガルル、と今にも噛みつきそうな小型犬のような顔つきだが、相手は優斗を見下ろし、見つめているので気がついてはいなかった。
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