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第34話
弟、奏斗のドジな兄が変な男に騙されたら、そうして、優斗の友人を通し、優斗を監視していたのは奏斗も図らずも節穴ではなかった。
奏斗は幾度か告白された経験があり、用心深いが、兄の優斗は自分がモテるわけがない、とまるで自分に無頓着。
奏斗もいざとなれば力では敵わないかもしれないが、その為に優斗は奏斗のクラスメイトだけでなく、情報を集めては監視もしている。
問題は自覚がない優斗だ。
「覚えてない?ほら、子供の頃、三人でよく遊んでたじゃん。隣に住んでた、一之瀬広夢。優斗はヒロにいちゃん、て呼んでたけど」
優斗に微笑みかけるが、隣の奏斗はわかる。
いや、奏斗だからわかる。
兄、優斗の真ん丸な目とポカンと開いた口。多分、覚えてない。
「思い出した?」
「え?は、はい。思い出しました、お久しぶりです」
テキトーに合わせたな、お兄ちゃん...。
隣で、奏斗はプクッと頬を膨らませた。
優斗が小三、奏斗が小二の頃、隣に引越してきた、当時、小五だった広夢だ。
その頃も、奏斗は優斗のクラスに出向いては教科書を忘れたと知るなり、別のクラスに走り、代わりに教科書を借りに行き、学校で怪我をした、と知るや、
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
一目散と保健室に走り。
甲斐甲斐しく、兄の傍にいた。
が、引越し族らしい、広夢が両親と一緒に挨拶に来るや否や、奏斗は嫌な予感が過ぎり、それは的中した。
奏斗の存在が脅かされた唯一の存在が広夢だ。
優斗と奏斗に、仲良くしてあげてね、と言われ、除け者には出来ず、三人で一時期、遊んでいたが、優斗が転びそうになると優斗を守り、
「優斗はホント、ドジだなあ」
広夢より小柄な兄、優斗の頭を撫で、遂には、危なっかしいから、と優斗の手を握るようにもなった。
子供同士が故、
「仲がいいのねえ」
手を繋いでいる、優斗と広夢が怪訝な眼差しで見られるどころか、微笑ましい、と大人たちは見守った。
奏斗はキリキリ、奥歯を噛み締め、唇を噛んだ。
(ずっと傍にいて守ってきたのは僕なのに!)
奏斗にとって、広夢は忌々しい存在だった。
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