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第35話

そして、とある日のこと。 ふと、微かに開いたドアから微かな話し声がし、そっと覗き見をした。 「あの、あのさ、優斗。大人になったら僕と結婚してくれない...?」 広夢を見上げ、きょとん、としている、兄の優斗。 不意に、広夢が優斗に近寄ろうとし、抱き締められる!もしくはキスされちゃう! 「お兄ちゃん!遊ぼ!」 平然を装い部屋に飛び込むと、優斗の腕を掴み、部屋を後にした。 「奏斗、けっこん、てなんだろ...?」 「ああ、なんか墓場らしいよ、テレビで見た」 結婚について街頭インタビューをしていたテレビ番組を思い出し、ついて出た言葉。 「墓場...?まさか、広夢にいちゃん、肝試しに行きたいのかな...僕、怖いの苦手なのに」 震えた声で優斗が呟く。 結婚、の意味を知らなかった兄に嘘をついた。 僕たちは兄弟だし、しかも互いにΩ、広夢は多分、αだろう。 ....僕はお兄ちゃんと結婚すら出来ない。 その現実を突きつけられた。 やり切れない思いを抱えながら、三人で遊んだ。 が、負けん気の強い奏斗は、他人より、弟の僕の方がお兄ちゃんをよく知ってるんだから! と、鼻息を荒くし、いざ、兄の優斗が怪我しても大丈夫なよう、あらゆる応急処置に備えた丸いポーチを斜めがけにした。 それが今も奏斗の鞄の中に常にある応急処置セット、タオル、兄を思い、準備しているきっかけでもある。 「今さ、俺、大学に通ってるんだ。ちょっと近くまで来たから、どうしてるかなって、顔、見たくなって」 微かに頬を染めた広夢に奏斗はもう辛抱たまらん! と、 「すみません、広夢にいちゃん。僕たち、そろそろ...」 「え?あ、ああ、ごめん。じゃ、またな、優斗、奏斗」 ふう、と奏斗が息をつく隣で、 「...あれ、誰だっけ?」 変わらず、首を傾げ、丸い目で遠ざかっていく広夢を見つめている。 もしかしたら、奏斗の説明した、「結婚は墓場」に、ホラーすら怖くて見れない優斗の記憶から広夢を消し去ったのかもしれないが、優斗本人はプロポーズされた相手を覚えてはいなかった。

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