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第38話
「ごめんね、お兄ちゃん。校門前で待ち合わせず、僕がお兄ちゃんを迎えに行ってたら良かったのに...」
今まで何も問題がなかった為に起きた予想だにしなかった事件。
隣で肩を並べ歩く優斗は、顔面蒼白で俯き、瞬きも忘れ、
「α怖い、α怖い...」
と、ぶつぶつと覇気のない声で繰り返していて、奏斗の声は届いていない。
まさかのまさかで見ず知らずの三年に襲われたのだから無理もないな、と隣の奏斗は心配な眼差しで優斗を見つめた。
と同時に、兄の優斗を守ってきたつもりが...
奏斗もまた、自分の不甲斐なさを痛感した。
自宅に戻るなり、優斗は母に、
「...Ωしかいない学校に編入したい」
と意気消沈で話し、
「そんな学校、ある訳ないでしょ」
理由を知らない母は優斗に投げやりに返した。
兄の優斗を当たり前だがよく知っている奏斗は、暫くは優斗の傷やダメージは続くな...と肩を落とす優斗を秘かに見守った。
夏の定番、特番での心霊番組。
互いに子供の頃、優斗は裏番組の別の番組が見たかったが、両親は食い入って番組を楽しみ、奏斗も特に怖くはなかったが、兄の優斗は違った。
「もういいでしょ、早く番組、切り替えてよ」
当時、リビングにしかなかったテレビで、優斗は恐怖の余り、頭からブランケットを被り、半泣きでチャンネルを変えて貰うのを待った。
必ずと言っていい程、その後は、奏斗の部屋に来て、
「怖いから一緒に寝てくれないかな...」
「トイレ行くの怖いから一緒に行ってくれない...?」
一人ぼっちの部屋の暗闇を怖がり、奏斗と共に眠る。
トイレの際は奏斗がトイレまで連れていき、しっかりトイレが済むまでその場で待機し、トイレから部屋までの暗闇を怖がる優斗の手を握り、部屋へと戻る。
寝付けない兄に気づき、
「大丈夫だよ、お化けが出たら、僕が退治してあげる」
一つ下の弟の奏斗に、
「ありがとう、奏斗」
半泣きでお礼を言う優斗だった。
早速、奏斗は恭一、大貴、慶太に優斗が襲われたことをLINEで報告した。
「...奏斗はまだ虚勢を張ってるし、隙がないけど、優斗は隙、あり過ぎだもんね、その隙を狙われたんだろうね」
さすがの慶太も優斗に同情した。
実はかなり無垢で純粋、人一倍、怖がりな兄を知っているだけに奏斗もなんとも居た堪れない思いだった。
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