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magic of love

 ちょっとこっち、と腕を引かれて連れて行かれたのは、教材準備室。 「あのさ……今の……本気で言ってる?」  じっと見つめる様が人を煽るのだと、この人は気付いているのだろうか。 「本気です」  きっぱりと答えれば、返答に困っているらしい先生が、あーとかうーとか言いながら天井を見つめてる。  どうせなら、オレのこと見てくれたらいいのに。  そんなことを想いながら、ただひたすらじっと見つめていれば、カクゴを決めたらしい先生が、あのさ、と歯切れ悪く口を開いた。 「オレ一応、教師なんだよね」 「知ってます」 「うん。……で、相沢は生徒でしょ?」 「そうですね」 「そうやって考えると、やっぱさ……ムリでしょ」  考え考え、ゆっくりと紡ぐのを根気よく最後まで聞いてから 「ムリじゃないでしょ」  きっぱりと否定してやる。 「や、ムリだって」 「なんで?」 「いや……そりゃ年だってさ」 「先生いくつ?」 「オレぇ? オレ……23」 「オレ、来年の3月で18なんですよ」 「へー」 「23と18ってフツーですよね」 「ぅ……」  ぐ、と詰まるのを内心愛しく笑ってから、たたみかけるように続ける。 「だいたい、教師と生徒って言ったって、オレもうすぐ卒業だし。そしたら生徒じゃなくなるよね?」 「それはー……」 「それに。教師とか生徒とか関係ない。……オレを見てよ」 「……」 「赤井朋弥が、相沢晴明を好きか嫌いかを、聞かせてよ」  真っ直ぐに見つめる先で、先生が驚いたような顔をして。  その後でゆっくりと首を振った。 「相沢は、オレの生徒だよ」 「っ……先生!」 「ほら……相沢だって、オレのこと先生って呼んでるんだし」  な? と痛そうな顔した先生に、諭すように言われて。 「じゃあ朋弥!」 「っはぁ!?」 「それならいいんでしょ!?」 「ぃや……それは……」 「朋弥は! どう思ってんの!?」  もう逆ギレ状態で叫んでいた。 「ちゃんと答えてよ!」 「赤井朋弥が、相沢晴明を好きか嫌いかを、聞かせてよ」  真っ直ぐに見つめられた。  正直、胸の奥が痛いくらいに高鳴っていた。 「朋弥は! どう思ってんの!?」  叫ぶ声に、胸の奥がギリギリ締め付けられてくような気がして、ぎゅっと手を握りしめる。 「ちゃんと答えてよ!」  心に灼き付くような声だと思った。  息が出来なくなりそうなほど切なくて、思わず抱き寄せたくなるほどに愛しいような。  そこまで考えてしまってから、ゆるゆると頭を振る。  相沢は生徒なのに。  5コも下だし。  何より、オレの生徒なんだから。 「朋弥……っ」 「----っ、オレは! 教師なんだってば!!」  握った手に力を入れてから、俯いたままで叫び返す。 「…………オレは……教師なんだよ。……相沢は、……オレの、生徒、なんだよ……」  自分に言い聞かせるみたいに切なく呟けば、そっと相沢の手が顔に伸びてくるのに気付く。 「……でもオレは、本気なんだ……」  優しい手のひらは頬を包んで、追い打ちをかけるみたいに、優しくて切ない声がかけられる。  ヤメろよ、と呟く声は、情けないほどに掠れていて。 「…………顔、上げてよ」 「……」 「ねぇ…………----朋弥」  躊躇いがちに呼ばれて顔を上げれば、相沢は情けない瞳をして笑って。 「とっておきの魔法、見せてあげよっか?」 「……まほう……?」 「そう。魔法」  いきなり何? と首を傾げたけれど。  音にするはずだった言葉は、相沢の唇に奪われた。 「…………オレのこと好きになる、魔法」 「……」  ゆっくりと離れていった相沢は、苦しそうにそう呟いて、強引に抱き締めてきた。 「……どうしても、好きなんだ……」  耳元で呻くように呟いた相沢を、振り解けなくて。  恐いくらいに愛しいと思って、焦る。  オレは教師。相沢は生徒。  バクバク言う心臓を無理矢理に押さえつけながら、弾けそうな心に言い聞かせる。  だけど。 「…………朋弥」  切なくて愛しくて優しい声で、静かに囁かれて。  築きかけてた教師だって言う想いが、崩れるのが分かる。 「ヤ、メ……」 「ヤメない。好きなんだ」 「ヤメ……」 「朋弥」  体が、震えたような気がした。  どうしよう、って。心が揺れてるのが分かる。  離れなきゃ駄目だ。  押し返して、ムリだって言わなきゃ駄目だ。  駄目だ。 「朋弥」 「ぁ……」  顔が近付いてくる。  避けなきゃ駄目だ。  駄目。 「朋弥」 「ん……」  重なる唇を、黙って受け止めてたオレは。  教師失格かも知れないけど----嬉しいと、思ってた。

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