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第5話 バカでエロ可愛い先輩に本気にさせられた俺(1)
「あそこの店舗の売り上げは、池沢という爽やか美形のおばちゃん人気で持っている」
俺が初めてその店舗を回る前に上司に聞かされた話だ。
ああ、いるいる。
店舗の窓口配属な時点で出世欲はあんまり無くて、小綺麗な見た目で若いうちは営業成績あげるタイプの男性社員ね。
「お疲れ様でーす!キャンペーンのチラシ持ってきました。こっちは新しくこのエリア担当になった篠田です」
「はじめまして、よろしくお願いします!」
適当に元気よく挨拶してニコッとすれば大体の相手は釣られてニコニコし出す。
俺は自分の見た目の良さを自覚して最大限有効利用している。
女子社員は俺を見てざわついていた。
上司がふと気がついて言う。
「あ、池沢くん!篠田くんと年近いんじゃない?」
呼ばれてこっちにくる若い男性社員。こいつが池沢か。俺はさっと全身眺めて採点する。
顔ちっせー。背は高くないけど手足長くてモデル体型だな。
澄ました顔をしていて愛想がない。おばちゃんにだけいい顔するタイプか。
黒髪に猫目でツンとした印象だが、そこに泣きぼくろが甘ったれた雰囲気を加えてて女受けは良さそうだ。
何年入社だっけ?と上司に聞かれて池沢が答えた入社年は俺の2年前だった。
へー、若そうに見えたけどセンパイか。
「よろしくお願いします、センパイ」
「よろしく…」
俺が営業スマイルかましても、ニコリともしない。可愛くねぇな。
それが俺の池沢さんへの第一印象だった。
その後何度か店舗回りの際に見かけてはいた。でも、別に話すこともなかった。
営業成績優秀者のリストには大抵載ってて、名前はよく見かけた。
そしてある日、本社主催で慰労会という名のただの飲み会が開かれた。
上半期の成績優秀者を集めて労う会…というか下半期もっと頑張れよ?という圧をかける会だ。
そこに池沢もいた。
最初は気にも留めなかったが、宴もたけなわになり皆酔いが回った頃池沢の周りに人だかりができていた。
話し声に耳を立てると、どうやら池沢が最近振られた話で盛り上がってるらしい。
くだらない。皆んな他人の不幸をつまみにして飲みやがって。
実は自分も最近彼女と別れていたので面白くないのもあった。
池沢はいつものツンとした顔と打って変わって、酔っ払って赤い顔をしていた。目はトロンとしている。
「も~だからぁ、振るタイミングってあるじゃらいですかぁ!」
もはや口調も怪しい。大丈夫なのか?
「もーみんな慰めてよぉ」
俺は立ち上がって池沢に近づいた。
酔っ払いの癖にこちらに気付くとさっと警戒するような目つきをされる。
俺は耳元に囁いた。
「実は俺も最近振られたんです」
それを聞いたら途端に大きな黒目を見開いて嬉しそうな顔をした。
そして俺の顔を両手で挟んで言った。
「お前がぁ!?この顔でぇ!?うっそだぁ!」
うちの姉のとこの6歳児ですらこんな失礼な事はしない。
俺は顔から手を剥がすが、向こうは酒臭い顔を近づけて俺の顔を覗き込んでくる。
色白だからか、もう首まで赤くなっている。ホント大丈夫なのかこいつ?
俺が振られたと知って急に懐かれてしまい、皆との二次会に行かせてもらえず俺は別の居酒屋に連れ込まれてしまった。
全席半個室になってる店だ。
なんで俺が振られたのか、余程気になるようでずっと聞いてくる。
結婚する気無いと言ったら逃げられたと話したら目を丸くしてビックリしていた。
酒飲むと人変わるな。表情がコロコロ変わって…しゃべりもうるせーし。
でもこっちの方が可愛げはある。
それで俺は逆に尋ねた。
「池沢先輩はなんで振られたんですか?」
すると急に真顔になって性の不一致だとか言い出した。それで具体的に何かって聞いてみてその答えに耳を疑った。
「俺さー、ナイショなんだけどアナニーハマってて。お尻いじらないとイケなくなっちゃって。そんでそれ言ったら振られたぁ。あはは!」
はぁあああ!?!?
おい、こいつ頭おかしいのか?こんな話、ろくに喋ったことない相手に言うことじゃないだろ。俺がこの話社内のやつにしたら終わりだぞ?!
思ってたよりかなりバカだし警戒心なすぎだろ。
しかしその後俺は自分でもよくわからないことを口走っていた。
「俺、男とヤったことないですけど先輩なら抱けそう~ハハハ!」
待て待て?俺は何言ってんだ?
なんだかんだ俺も酔ってんのか。
「アハハハハ!うける、お前の顔なら俺も抱かれたいわ。アハハハ!」
「え?」
「……え?」
キョトンとする顔が、やけに色っぽい。
酒で上気した頬に、トロンとした目元。
そこについむしゃぶりつきたくなるような泣きぼくろ。
アルコールで血行良くなってるから唇も異様に赤い。
なんだこいつ?こんなエロかったか?
アナニーしてるって聞いてついその姿を想像したからか?
どんな風にやるんだ。こいつ、今頭バカになってるから頼んだら見せてくれんじゃないか?
「俺、男としたことないから見てみたいな」
「へ?」
「センパイは男としたことあんの?」
「はぁ?あるわけねーだろ」
「ふーん。センパイの気持ちよくなってるとこ見たいな。そんで俺のコレ、挿れてみない?」
「は!?無理だろ!」
「でも気持ちいいよ、自分でするより」
「いや…でも…」
「俺上手いよ?ただの新しいおもちゃだと思って試してみない?」
「新しいおもちゃ…」
池沢先輩はゴクっと唾を飲んだ。
あとひと押しだ。
「絶対気持ちよくしてあげるから…ね?ホテル行く?それとも先輩の部屋行く?」
クロージングをかける。ここからは俺は無言だ。行かない選択肢は挙げずに、どこでやるかだけ相手に選ばせる。
「ホテルは誰かに見られたら困るから…俺のうち…がいい」
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