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第18話 俺の妹にイケメン彼氏はあげない!(2)

「お兄ちゃんその人は?」 妹が目をキラッキラさせながら聞いてくる。 そらそうだよな。目の前に見事なモデル体型の美形登場だもん。 「はじめまして。職場の後輩の篠田です。妹さんですよね?」 「こんばんはぁ!妹の美月(みつき)です。ちょっとお兄ちゃんこんなかっこいい後輩さんいたのになんで教えてくれなかったの!?」 「は?お前に教えてどーすんだよ」 「そっちこそ、は?普通言うでしょ」 「あはは、まあまあ、これからご飯?」 「あ、篠田はこれからどっか行くとこ?じゃなきゃ一緒に食べてかない?」 「もう帰るところでした」 「やったぁ、食べましょ食べましょう~♡」 そして結局篠田も席に加わった。 妹は普段はやらない食べ物のとりわけを率先してやった。 いつもなら俺に任せきりで食べる専門のくせに。 俺がやろうとすると遮ってまで、だ。 篠田は何を聞かれてもにこやかに答えていた。 年は篠田が28歳で妹が27歳の1つ差だった。あ、ちなみに俺は30歳ね。 それで、俺より歳が近い者同士話も合うらしい。 俺はちょっと除け者にされたようで面白くなかったが、せっかく遊びに来ている間だし妹には楽しんで帰ってもらいたくて黙って食事していた。 帰りは篠田がわざわざうちのマンションまで荷物を運ぶのを手伝ってくれた。 「悪かったな、こんな所まで」 「何言ってんですか。会えないはずだったのに会えてめちゃくちゃ嬉しかったです」 「うん…おれも…」 篠田は俺の耳元で囁く。 「先輩と少しでも一緒にいたくて…」 耳に息がかかっただけで俺は背筋がゾクゾクした。 それじゃまた明日、と言って篠田は帰っていった。 結局食事中に美月があそこに行きたいここに行きたいと話しまくったせいで、日曜日は朝から篠田も一緒に回ることになったのだ。 しかも映画の話になった時、俺が続編を待って篠田と2人で行こうとしていたアクションものを美月も観たいと言い出した。 美月は映画なら恋愛ものくらいしか観ない。アクションなんて観るの、聞いたことがなかった。 映画を予定に組み込むと他の場所へ行けなくなるのに、なぜかしきりに一緒に行きたがった。それで結局朝イチは映画を見ることになった。 本当なら観た後ゆっくりお茶か食事でもしながら感想を語り合いたかったのに、美月が一緒だったので話もままならない。そのまま買い物に付き合わされて、また荷物持ちだった。篠田は嬉々として美月の行動に従っており、女をエスコートする様子はスマートそのものだった。 これまで美月が遊びに来てこんなに不満を感じたことは無かった。 映画、やっぱ別の日に俺たちだけで行けばよかった。あの時見たい映画あるなんて言わなければな… そんな気持ちが湧いてきて自分で嫌になる。 俺は兄貴だぞ、妹の些細なわがままくらいなんだよ。 美月は映画なんて観たことも忘れたというように買い物や食事を楽しんでいた。 妹が楽しそうにしてるのだけがまだ救いだ。 その横で笑ってるのが篠田だということを除けば…。 営業スマイルじゃない、親しい人のみに向けられる篠田の微笑み方。 美月の好みは昔から良くわかってる。 俺の恋愛対象が今まで女だったから被らなかっただけで、それ以外の好みは良く似ている兄妹だ。 好きな食べ物、お菓子… チーズケーキよりチョコケーキ、スイカよりいちご。 子供の頃から何かを貰うとなって一つ選ぶ度に俺たちの好みは被って、その都度俺が妹に譲ってきた。 妹がチョコケーキといちご。俺がチーズケーキとスイカ。 それが当たり前で、疑問にも思わなかった。 その晩俺は篠田の夢を見た。 篠田は俺に抱きついて言った。 「先輩好きだよ…すごく好き。結婚しよう」 「ばかだな、俺は男だから結婚できないよ」 すると篠田が考えた末に答えた。 「そうなの?じゃあ俺、美月ちゃんと結婚する。先輩とそっくりだし、女の子だし」 俺は口を開こうとしたけど声が出なかった。 「たくさん子供が出来たら、先輩も一緒に甥っ子と姪っ子可愛がってね」 篠田は綺麗な顔で笑った。 そこで目が覚めた。 「っはぁっ!!はあっ!はぁ、はぁ…」 息が震えた。全身に汗をかいてる。 気がつくと涙が流れていたので、腕で拭って目を閉じた。 なんなんだよ、もう。

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