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第29話 篠田ごめんね許してね!の巻(1)

先日俺はやらかした。 人生で初めてあんな真面目に土下座したな。 でも、さすがに恋人が弟のアソコしゃぶってたら怒るよね。 別に浮気しようとかそういうんじゃないよ? ただカチンと来てタイマン張っただけだし。エロい意味は全くございません! でも、俺なんて篠田が妹とイチャイチャしてるだけで(してない)キレたくらいだからな…篠田が妹とキスするだけでも無理! うん無理。無理。 そうだよ。一応許してはくれたけど、顔射までキメられた妻なんて実際捨てられても文句言えないぞ。 ダメだダメだ! 篠田に捨てられたら俺死んじゃうよ。 だって俺今篠田のこと大好きだもんな。 よし、なんとかお詫びして機嫌直してもらわないと! 今週末はまた篠田の家に泊まる予定だ。篠田が仕事忙しい時、家のことが出来なくて部屋が荒れるので、俺が週末掃除したりご飯の作り置きをしに行ってる。 で、今日はご馳走の材料を買って明日は朝から気合入れて料理するって決めた! 今夜はとりあえず冷蔵庫にあるものを使い切るメニューにする。確かジャガイモが残ってたし、肉も使ってしまいたいのが冷凍庫にある…肉じゃがだな。篠田も好きだし。 篠田は甘じょっぱい味付けが好き。あの見た目なのに実は結構子供っぽい舌をしてる。例えばハンバーグなら酸味の強いデミグラスソースより、甘いケチャップベースの味が好み。凝った料理より、ポテトサラダとか普通の家で出てくるようなものを好む。 俺はまだ仕事中の篠田の家に先に帰って、料理を始める。部屋はやっぱり散らかっていた。洗濯物も溜まってる。ちゃんと寝れてないだろうなぁこれ。 まずは1度洗濯機を回しつつ、晩ごはんの支度をする。 料理は一段落して、あとは煮込むだけになったところでスマホを見たら1時間ほど前に篠田から連絡が入っていた。 「えーっとなになに?姉ちゃんが来るから晩飯お願いできますか?家庭料理が食べたいと言ってますぅ…???」 え?!マジで!?!?お姉さん来んの!? ちょっと待ってよ知らないで今夜めちゃくちゃ冷蔵庫の在庫処分メニューにしちゃったんだけど!? 「21時頃帰宅しますって、おいもう21時になりそうじゃん!!」 俺は料理はもう作ってしまったので諦めて、荒れ放題なリビングを高速で片付ける。 テーブルには食べたままのプラ容器やら、飲みかけのペットボトルなどが散乱している。 脱いだままのスラックスがソファの背もたれに掛かっていて、床には新聞が散らばってる。 「もっと早く気づけばよかった!」 バタバタと行ったり来たりしてなんとか人を呼べる程度にリビングが片付いた。 「はぁ、はぁ、はぁ…間に合った…」 ていうかお姉さん来て手料理食べたいって、俺のことなんて紹介するつもりなんだ? ただの先輩が家で晩飯作って待ってんのおかしいよな。 もう弟にもバレてるし、姉ちゃんにも話したってことかな? なんか…弟に会うのは別に緊張とか無かったけど、お姉ちゃんに会うのちょっと緊張… え、待って。これで俺の料理気に入ってもらえなかったら付き合うの反対されるやつ?! なにそれヤバくない?俺今日あの肉じゃがで戦えるの?豚肉だぞ? 俺の母さんが北海道出身だから肉じゃがは豚肉だと思って育ってきたのだ。 やばい…せめて牛肉だろ… 青くなって震えていたら玄関から物音がしてドアが開いた。 帰ってきちゃった!! ひ――、俺もうだめかも!なんで明日じゃないんだよ!?明日ならいっぱい材料買ってきたし気合い入れた食事作れたのにぃ!! 「お帰りなさい…」 「ただいま~。あ、先輩お疲れ様です。わあ、すいません部屋片付けてくれたんだ!ありがとう」 にこやかに帰ってきた篠田の後ろからモデルみたいに背が高い綺麗な女の人が現れた。 「こんばんは。はじめまして」 「はじめまして!池沢と申します」 「姉の衣織(いおり)_です」 ひぎ――、こんな美女があんな在庫処分料理食べるわけない!! 今すぐ土下座したいくらいの心境だ。 姉弟は手を洗って食卓に着いた。 「すっごくいい匂いね!私お腹空いちゃった~」 え…ほんとですか…? 「あの、お口に合わなかったらすみません。お姉さんがいらっしゃると思わず…有り合わせで作ってしまったんです…」 「へえ、これを?すごーい。私久しぶりに日本食にありつけてテンション上がってるわ!」 「え?海外にいらしたんですか?」 「ええ、仕事でね」 「何されてるんですか?」 「モデルなの」 「へー、モデルですか…ははは…道理でお綺麗なはずだ~~」 終わった…海外で仕事してるモデルさんに豚肉の肉じゃが出しちゃってる俺とは…消えたい… 「いただきまーす!」 篠田とお姉さんは本当にお腹が空いていたようでぱくぱくと食べてくれた。 うう、食べてくれるだけでありがたい… 「美味しいわぁ!佑成、あんた良い奥さんもらったじゃない」 「でしょ?」 「ははは…」 俺は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。

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