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第45話 【篠田視点】甘やかしデートのはずが…(2)
俯いてる先輩が内心どう思ったかはわからない。
本当はあんなこと言われて嫌だったかも。
先輩は俺とのことを人に言うのを未だに許してくれない。
だから俺は先輩のことは弟の剣志くらいにしか話せない。こんなに好きで、大事でたまらないのに。
本当は俺のものだってそこら中に言って回りたい。
先輩は俺が掴んでいた腕をそっと離した。
何だか拒絶されたようで胸が締め付けられた。守ってやりたいって思ってるのに、返って傷つけてるだけなんじゃないのか。
「先輩ごめん。ただ元気になってもらおうと思って出掛けてきたのに…結局先輩のこと嫌な気分にさせて」
俺が謝ると、先輩はビックリした顔でこっちを見て立ち止まった。
「え、違う!ごめん俺の方こそ。俺のせいで篠田に恥ずかしい思いさせて申し訳なくて…なんかほんとごめんな」
居た堪れなそうに髪の毛を耳にかけてる。
は?そんなこと考えてたのか?
この人は本当にわかってねえな。
俺は先輩を引っ張って人けのない所に連れて行く。
「あのさぁ、何を勘違いしてるのかわかんないけど、さっきのこと何も恥ずかしいなんて思ってないから。俺が先輩のこと好きなのも、別にホモだって言うなら勝手に言わせておけばいい。男同士だけど好きなんだから。それに先輩がお尻で気持ち良くなっちゃうことも俺にとってはラッキーでしかないよ。じゃなかったら俺たち付き合えてないし」
「ま、真面目な顔で変なこと言うなよ!」
先輩は顔を赤くして辺りを見回している。
「俺は真面目に言ってるんだよ。俺は先輩のお尻が大好…」
「ばか!やめろ!!」
周りに人もいないしいたとしても誰も聞いていないが、先輩は大慌てで俺の口を塞いできた。
「お前、何なんだよもう……なんでそんないつも自信たっぷりなんだよ」
「別に。だって先輩を好きでなんで悪いの?」
恥ずかしそうに顔を赤くして口を引き結んでぷるぷる震えてるのが可愛い。
「俺は…こんな事ある度に自分が嫌になる。篠田のこと好きだけど、そのせいでお前に迷惑かけるのは嫌なんだ…」
「はぁ?だから迷惑じゃ無いって」
はぁ、と一つため息をついた先輩が意を決したように言う。
「あのおばさんにヤられかけて…おばさんが赤ちゃんに執着してるのを見て思ったんだ」
「は?何を?」
何でまたあのおばさんが出てくるんだよ。
「篠田は…俺なんかと一緒にならなきゃ普通に女の子と結婚して赤ちゃんが出来て幸せになれるのにって」
それを聞いて俺はカッと頭に血が上った。なのに先輩はまだ話し続ける。
「俺はもう、アナニーハマった時点で女の子と結婚とか無理だけど篠田は違うから」
先輩はバカだといつも思ってたが、やっぱり大馬鹿だ。
俺はもう我慢の限界だった。
「先輩、ちょっと一軒付き合ってもらう」
「え?」
有無を言わせず腕を引いて連れ出した。
「篠田、どこ行くの?ていうか俺の話聞いてんの?!」
「聞く価値もない。先輩バカすぎだろ」
俺は怒ってんだよ、黙ってろって。
「バカって…酷くね?何だよ人が真面目に話してんのに」
先輩はぶつぶつ言い続けてた。
とにかく、この人が誰のもので俺が誰のものなのかってきちんとわからせないとダメなんだ。
何度口で言ってもわかってくれないから、目に見える形にしないと。
俺は歩きながら電話を一本入れ、ちょうどキャンセルで空きができたという返事をもらって目的地へ向かった。
* * * * *
「え…篠田ここって…」
特徴的なブルーカラーが目印のジュエリーショップの前で先輩はドン引きしていた。
そう思って今まで連れてきたことなかったけど、俺は実は下見に何度か来ている。
「行くよ」
さすがにこんな場所で騒ぐ気にはなれなかったのか、大人しく付いてきた。
2階に上がって予約の名前を告げると担当者がやってきた。
「篠田様、お待ちしておりました」
柔らかい笑顔の40代くらいの女性で、最初に来たとき同性に贈るためのリングを選んでいると言っても全く動じることなく対応してくれた。
「本日はご試着もなさいますよね」
「はい、お願いします」
「前回ご覧になっていたものをお出ししますのでお待ち下さい」
俺とこの店員が話すのは初めてじゃないと気づいて先輩は明らかに狼狽していた。
「まさか前にも来たことあるの?」
「ある」
先輩は何か言い掛けて口を開こうとしたが、諦めて黙った。
試着する間も、先輩は店員を警戒しているのか綺麗な顔から笑顔は消え、態度も素っ気なかった。俺は先輩との初対面のときのことを思い出して笑いそうになった。
この人、緊張するとこうなるのか…。
いくつか付けてみて、俺たち二人ともに似合うペアリングを選んだ。
「これかな」
「うん、これがいちばんしっくりくる」
刻印をしてもらうのに時間がかかるので、受け取りは3週間後となった。
先輩がカタログの入った紙袋を渡されて、2人で店を出る。
ブルーの紙袋を持った先輩は無表情で猫みたいにツンとしたまま店の前を一刻も早く離れたいというようにスタスタ歩いて行ってしまった。
少し先で立ち止まって俺を待っているので、追いかけて声を掛ける。
「ちょっと待ってよ。どうしたの?そんなに嫌だった?」
先輩が振り返った。
「いきなりこんな所連れてくるなんて!お前は本当に自分勝手だな」
「楽しかったでしょ?」
「……俺、お前の分は払うからな」
「ダメだよ。どうしてもこれだけは俺に払わせて。他の何を先輩が払っても構わないから」
俺の目を見て本気だとわかったのか、先輩はそれ以上払うとは言わなかった。
「はぁ~~、もう、変な汗かいた。早く帰ろうもう、無理だ俺…」
眉間にシワを寄せておでこを拭ってるのがおかしい。
「さっきまで全然平気そうだったじゃん」
「そんな訳無いだろ!死ぬかと思ったわ。でも店員プロだな。男同士でも態度普通だったし」
「うん。行く前調べたんだけどここの店、同性のカップルを広告起用したり同性向けにも力入れてるみたい」
「へー」
「先輩は嫌がると思ったんだけど…一樹さんが俺のものってわかる印が欲しかったんだ」
先輩は無言だったけど、顔は嬉しそうだったからもう怒ってない…はず。
「ありがとう佑成。俺、たぶんお前が思ってるより今気分いいよ」
「ほんと?良かった!怒られると思ってた。よかった…」
先輩は俺の背中をポンポンと叩いた。
俺たちは帰路についた。
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