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【番外編】6.肝試し

昨夜羽目を外しすぎて朝起きると全身だるかった。 でも店を開けないわけにはいかないのでいつもどおりの時間に布団から出た。 あの後気を失うように眠ってしまったのだが、例によって身体は綺麗になり、清潔な部屋着を着せられていた。 昨夜のことが嘘のように、布団も何もかもが整然と並んでいる。 寝息を立てる兄弟を起こさぬように客間を抜け出し、シャワーを浴びて身支度を整えた。 居間に行くと、両親はもう起きていた。俺は朝食を食べて店を開ける準備をしに行く。 カウンター内に入り作業に取り掛かろうとしたが、昨夜のことが頭を過ぎってたまらずその場にしゃがみ込んだ。 「…………っぅ……」 口を押さえて嗚咽を堪える。 あんなの……だめだろ! 酔ってたからって2人にあんなことさせて…! あいつらもどういうつもりなんだ。俺がまだ童貞だと思って揶揄ってるのか? 「はぁ…はぁ…」 床に座り込んだまま膝に頭を乗せて息を整える。 死ぬほど気持ちよかった。あんなセックス癖にでもなったら俺は生きていけない…。 どうしよう。 2人のことが好きってバレたら…もう一緒に居られない。絶対にこの気持ちは隠さないと… 兄貴分のはずの俺が、こんな情けない有り様だなんて。 俺はよろよろと立ち上がって店内の掃除を始めた。 そして定刻通りに店を開ける。 モーニングを食べに来る客もそこそこ居て、ありがたいことに毎日朝から忙しい。 「いらっしゃいま…え?」 客だと思って声を掛けたが、入ってきたのは剣志だった。 「手伝うよ」 「え、でも…」 剣志は裏に行って予備のエプロンを勝手に着けると、手を洗って仕事を始めた。 食べ終えた席の食器を片付けたり、客から注文を取ってくれる。 「ありがとう」 「ああ」 正直、腰が痛くて辛かったから助かる。 モーニングの時間が終わり、ランチ前で客が一旦引いたので俺は剣志に椅子に座るよう言われた。 「ごめんな…あの、今日はなんだか朝から腰が痛くて」 「そうか」 昨日のこと、何も覚えてないフリしてるつもりだけど…無理あるかな。 「あの、昨日飲み過ぎて…また記憶飛んでて…着替えとかしてくれたんだよね。ありがとう…」 「ああ」 剣志は短く返事するだけで、何も言わずに洗い物をしてくれている。 無かったことにしてくれるようなので甘えることにする。 「あ…えっと、佑成は?」 「おばさんと買い出しに行くって言ってた」 「そう」 母さんは篠田兄弟が遊びに来たとき、イケメン連れで買い物に行くのを楽しみにしてる。 今日は兄がお供させられてるという訳だ。 「一樹…今夜はやめておくか?」 洗い物をしながら剣志がこちらを気遣うように言った。 「え?肝試しなら行くよ」 「そうか」 午後もいつもの通りの客足で、20時に閉店して片付けを終えたのが20時半過ぎだった。 剣志と店を閉めて帰宅し、夕飯を食べた。 佑成はうちの親たちと既に食事を済ませた後だった。 夕飯の洗い物をして、親に車のキーを借りた。 「じゃあ、行こうか」 佑成はちょっと青白い顔をしてこちらを心配している。 「いっちゃん本当に大丈夫?昨日たくさん飲んだけど具合悪くない?」 「大丈夫だって」 笑顔で返事する。むしろ佑成の方が具合悪そうに見えるよ。 3人で車に乗り込み、俺の運転で目的地に向かう。 ナビを設定したら車で30分くらいだった。 高校生たちはどうやって行ったのかな?自転車か、大人の運転する車で? 国道を進んで行き、横道に逸れて市街地から少し離れ、橋を一つ渡る。 そう長くないトンネルを抜け、林道を走ってしばらくすると木々が生い茂る場所から一旦開けた土地に出る。 廃工場の敷地で、そこが目的地だ。 くだらない雑談をしているうちに到着した。 工場のすぐ近くに、安全祈願のためなのか小さな祠があるという。そこで火の玉や女の人の霊が目撃されたという噂だ。 車を降りるとシャンシャン…ジリジリ…という虫の鳴き声に包まれた。 懐中電灯で照らしながら一帯を見渡して佑成が感想を述べる。 「まあ…たしかに薄気味悪い場所ではあるな」 「夜だからだと思うけどねえ。」 「一樹、手でもつなぐか?」 「やめろよ、ばーか」 差し出された手をパチンと叩くと、意外と音が響いてちょっとビビる。 「祠はどこにあるのかなあ」 剣志が工場のほうを指さして言う。 「ちょっと俺そっち見てくるよ」 「え…一人で行くの?」 「なんだよ、おててつないで行こうってか?」 「もうそれはいいってば!」 剣志は一人で工場の裏を見に行った。 俺と佑成は反対側の木の生えてる方へ向かった。 「あ、あれじゃない?」 木の下に、石造りの祠があった。 俺達は駆け寄った。 「あー、きっとこれだな」 「まあ…よくあるよねっていう?」 何の変哲もないただの古びた祠だ。 「別に何ともなさそうだな。ん?」 「何?」 「今なんか光ったような…」 佑成が屈んで祠の右下に手を伸ばした。 俺もその先を覗き込むようにして目を凝らしていたら不意に後ろから何かが身体にぶつかって来た。 「わぁあああっ!!!!」 そのまま腹に腕が巻きついてきて、ガバッと抱え上げられ両足が少し浮いた。 「ぎゃあっ!やだ!や、離せ!離せ!!」 そのままぐるっと一周回って下に降ろされた。 「あははははは!ビビった?」 後ろを見たら先ほど反対側を見に行った剣志だった。 「は、はぁ、はぁ…」 俺は怖くて心臓がバクバクしてしばらく言葉が出なかった。 口をパクパクさせていたらさすがに剣志が心配になったのか、おろおろして顔を覗き込んできた。 「おい、大丈夫か?そんなに驚くと思わなくて…」 「はぁ、はぁ…ば、ばかやろ…」 「ごめん一樹、謝るよ」 「剣志のばか!佑成、もうやだ。帰ろう」 俺はちょっと涙目になりながら佑成の袖を引っ張る。 佑成はさっき見つけたものを拾ってまじまじと見つめていた。 「何それ?」 「うーん…ただの鏡の破片らしい。きっと懐中電灯の灯りが反射したから光ったように見えたんだ。それを火の玉と勘違いしたんじゃないかな?」 「なんだ…それだけのこと…」 「何も出ないし、からくりもわかったから帰ろうか。いたっ!」 佑成が呻き声をあげた。 「どうしたの?」 「いや。破片で指を切った」 「あ、血が出てるよ」 「大したことない。さ、帰ろう」 帰りは俺への懺悔の気持ちなのか、剣志が運転すると言って運転席に座った。 剣志が反省してるようなので俺は助手席に乗ってやった。

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