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【番外編】7.ゲーム『屍霊村』の世界へ転生

結局俺たちは「何も無かったね」と話しながら帰路についた。 林道を戻り、トンネルに入る。 何を話してたか、後から思い出せないようなつまらない話をしながら車に乗っていた。 しかしふと気付いたらまだトンネルの中だ。 「あれ…?このトンネルこんなに長かったっけ?」 「んー?こんなもんじゃねえ?」 「ああ…出口だ」 なんとなく、来たときよりかなり長く感じたけど気のせいか。 そしてまた雑談していたが、今度は剣志が異変に気づいた。 「おかしいな…なんで国道に出ないんだ?」 「え、何?」 「いや、トンネルから国道までこんなに長かったか?」 そういえば話に夢中になってたけど、かなり走ってる気がする。 なのにまだ林道の中だ。 「ナビは?」 「それが、もう少しで国道って位置から動いてないことにさっき気づいたんだよ」 俺は剣志と顔を見合わせた。すると後部座席の佑成がスマホを見て言う。 「ここ圏外でスマホのマップは使えない」 剣志は一旦車を停めた。どのスマホも圏外だ。 3人で顔を見合わせる。 俺は努めて明るく言う。 「で、でもほら。ここって一本道だから迷いようがないよね?行こうよ」 「それもそうだね…」 「とにかく、電波のあるところまで行くしかねえな」 剣志が再びエンジンをかけ車を発進させる。 「橋って渡ったんだっけ?まだだっけ」 話に夢中で覚えていない。剣志も佑成も答えない。2人とも覚えていないのだろう。 なんとなく落ち着かない気分のまましばらく走ると、ヘッドライトが橋を照らすのが見えた。 「あ!橋!」 「よかった、あれを渡ればすぐ国道だ」 しかし安心したのも束の間、橋を渡った先に国道は無かった。 思っていたのとは全く違う景色が眼前に広がっていて3人で愕然とした。 ようやく広い道に出ると思ったのに、橋を渡ると今来た道より酷い、舗装されていない畦道に入った。 まるで街というより、村みたいな… 街灯が増えて店の明かりなどが見えてくるはずなのに、ほとんど街灯も無い、暗い農村に出た。 「え…?ここどこ…?」 「なんだ?どうなってる?」 俺たちは呆然としていた。車を徐行させて3人で辺りを見渡すが、そもそも灯りが少な過ぎて周囲の様子がよくわからない。 でもとにかく、来る時にこんな道は通っていないのは確かだ。 でも、ナビ上ではここは来るとき通った道で、既に市街地に入ってることになっている。 「どうなってるの?剣志、佑成…」 「あ!見ろ、人がいる。道を聞こう」 「よかったぁ…」 俺はちょっと不安だったから人影を見てホッとした。 ラッキーだな。こんな時間にこんな暗い夜道で人に会うなんて。 剣志がサイドウィンドウを下げて50代くらいのおじさんに声をかける。 「すみません」 「…やあ。ここらでは見ない顔だな」 「あ、はい。俺たち道に迷ったみたいで。国道○○号線へはどっちへ行けばいいでしょう?」 「こんな所へ来るとは物好きな若者だな」 ………? 俺はなんとなく違和感を感じた。 剣志がさらに問いかける。 「すみません。肝試ししてたんですけど迷ってしまって。あの、国道は…」 「肝試しか。それなら君たちに頼みたいことがある。5枚のお札を集めて、井戸に貼ってくれ。」 「はぁ…?お札…?」 井戸にお札って急になんの話? 「あの、俺たちもう肝試しは終わって家に帰りたいんです。K市から来たんだけど迷っちゃって。あ、せめてここがどこか教えてもらえますか」 「ここはY村の入り口だよ。この村の者はみんな怖がって誰も神社まで行けないんだ。だから、余所者の君達にしか頼めない。お願いだ…!夜明けまでにお札を5枚集めて井戸に貼ってくれ」 え…夜明け?神社?このおじさん怖いんだけど。なんか話通じてないし、お札って… でもこのおじさんどっか見覚えあるんだよなぁ。 「おい、なんかおかしいぞ、戻ろう」 後部座席から佑成が言う。それに剣志が答える。 「でも、ここまで一本道だったぞ。どうする?」 うーん、この顔どこで見たんだっけ… 「屍霊の呪いを封じられるのは余所者の君達だけなんだ!頼む!」 「は?ヤバいぞこのおっさん。逃げよう」 そう言って剣志は慌てて車のエンジンを掛けた。 しかしおっさんが言ったこの言葉で俺は思い出した。 「ああーっ!!わかった思い出した!これ、『屍霊村』じゃん!!」 「はぁ?」 ステアリングを握ってバックしようとした剣志と、後部座席で身を乗り出していた佑成が2人共そっくりな顔で俺を見た。 「ゲームだよ!お前たちも昔やっただろ一緒に。『屍霊村』!やっば、懐かしいんだけど」 「いっちゃん…ちょっと落ち着いて。何言ってるんだ?」 「いや、だから。ゲームのおっさんだよあれ!」 「暑さでとうとう頭やられたか…」 剣志が失礼なことを言っている。 2人とも覚えてないのか? 「ほら、井戸から女の霊が出てきて、神主を倒すゲームだよ!」 そう言うと、2人が視線を虚空に彷徨わせ考えるような仕草をした。 「なんか…そんなゲームあったかも」 「俺もなんとなく思い出したような」 「ね!ね!ほら、あの禿げたおっさん。学校の先生だよ!真相に気付いて辞めさせられた」 「よく覚えてるなお前…」 「でもそう言われたら思い出してきた」 え?待てよ。でもあのおっさんがゲームの登場人物だとすると… 「俺たちまさか…」 「ゲームの世界に転生してる――?!?!」

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