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【番外編】12.駐在さんの手帳と村長の家
俺は後部座席でシートにぐったりと身体を預けていた。
今回は剣志が助手席に座っている。
佑成が運転しながら話しかけてくる。
「2人が出てくる直前に白っぽい影が中から出て来て、裏に回って行ったんだ。見つからずに済んだのか?」
「………うん」
どうやって回避したか思い出して赤面する。
あんなこと、どう考えても言いにくい。
「ああ。掃除用具入れがあってそこに隠れたら回避できた。な?」
「え?あ、うん」
「いっちゃんは身体はもう大丈夫なの?」
「ああ。霊が遠ざかったら熱いのも冷めて…その…」
俺の歯切れが悪い返事に違和感を覚えたのか、佑成はなおも聞いてくる。
「どうしたの?なんかいっちゃん変だよ。何があったの?」
「実は、接近を察知する体調変化ってのがな」
「剣志!」
俺は慌てて止めようとしたが、剣志は全部話してしまった。
どうせこの後佑成にも見られるだろうから知らせておいた方が良いと言われて断れなかった。
「そんなことが…ったく、なんておかしなゲームなんだ。いっちゃんがゲームした時そんな設定あった?」
「いや…無いとは思うけどわからないんだ。俺、実はこのゲームクリアしてないんだよ」
「え?そうなの?」
「うん。おっさんの話を最初に聞いたときに気づいたんだけどね」
この怨霊の背景となった事件がレイプとか妊娠とか重すぎて、10年前まだ子供だった俺はゲームを進める気をなくして結局クリアせず放置してしまったのだ。
だから、レイプ犯が誰かもわからない。
「なんだ。じゃあ皆初めてこのゲームをプレイするってことか」
「うん。俺もおっさんと話した後くらいからゲームの記憶が全然無いんだ。だからほぼ初見だね」
「じゃあ夜明けまでにクリア目指すなら急がないと」
「うん、次はどこに行く?」
お札は手に入れたが、次への手がかりが無かった。
「それはこれに書いてあるはずだ」
剣志が黒い手帳をポケットから取り出した。
「何それ?」
「さっきロッカーで見つけた。駐在さんの手帳だ」
「え!そんなのあったの。いつの間に…」
空き地を見つけて車を停め、3人で手帳を調べた。
字が汚くて読みにくいな。
あゆみの事件に関係なさそうなメモも多い。
そういうのを読み飛ばして、関係がありそうな記述を探す。
「うーん…特にないかなぁ」
「レイプ事件って何月何日なんだろう。おっさんに聞いておけばよかった」
「アプリの方に何か書いてないの?」
「見てみる」
アプリを起動し、マップ上のあゆみの家をタップする。
ポップアップウィンドウが開く。
ーーーーーーーーーーー
【小林家】
小林たけお(45歳)
小林ちえみ(41歳)
小林あゆみ(◯年◯月◯日没、享年18歳)
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「没年月日が載ってる!」
「よし、この年月日に近い日付をメモで見つけよう」
ページを捲り、日付の書いてあるところをチェックする。
「あ!これは?」
”◯年◯月◯日20時 村長宅"
あゆみの死亡した日の3日後だ。
葬儀の直後でなにかと忙しいだろうに、村長の家で会っていた…?
「村長か…もし村長が犯人だったら、事件がもみ消されるのもうなずけるな」
「よし、次は村長の家に行こう」
アプリで村長の家を探す。
「ここだ。すぐ近くじゃないか」
村長宅にはすぐに到着した。家の近くに車を停めて全員外に出る。
俺はスマホを持ってる佑成に聞く。
「今何時?」
「えーっと、21:30だ」
「知らないお宅に訪問するにはちょっと遅い時間だな」
剣志は歩を緩めず進んで行く。
「どうせゲームの世界だ。気にするな、行くぞ」
田舎にしては立派な家で、人感センサーでライトがついた。
ピンポーン。
インターホンの音に反応して夫人の声がスピーカーから聞こえてくる。
『はい、どちさらまでしょう』
「あの、僕たち村長に用事があって来たんですが」
『え…?主人は今入院していますが』
うわ、村長も入院中かよ。
でもきっとあゆみの霊の仕業だよな。益々怪しいぞ。
「どうしてもお聞きしたいことがあるので、開けてもらえませんか」
『……………』
「小林あゆみさんの件でお話があるんです」
『…………わかりました』
あゆみの名前を出したら要求に応じたぞ。
何か知っているのか?
スピーカーがブツっと切れ、しばらくして玄関のドアが開いた。
「こんな夜遅くに一体何事です?」
「突然すみません。あの、村長はどうして入院を?」
「…知人の農家宅で慣れない農機具を触ったんです。そしたら両腕を巻き込まれて…」
げーっ。スプラッタ系なお話か!
「そうでしたか。失礼しました。ところで、村長は小林あゆみさんをご存知でしたか?」
夫人はあゆみの名前にぴくりと反応し、動揺したように見えた。
「え、ええ。いえ、どうかしら…わかりません」
「奥さんはご存知なんですね」
「それは…新聞にも出ましたし、狭い村ですから噂は色々と」
青白い顔をした村長夫人はキョロキョロと視線が動いて落ち着かない様子だった。
「村長が生前に小林あゆみさんと会っていたという話は聞いていませんか?」
そう聞かれてビクッとしている。
「そんな、まさか。知りません。ただ…」
「ただ?」
「怪我をする前日に、あゆみさんの幽霊を見たとか言っていたわ」
俺達は3人で顔を見合わせた。
佑成が食って掛かる。
「どこで見たんです?この家ですか?」
「いいえ、たしか村役場の執務室って言っていたわ」
そこだ!そこにおそらくお札がある。
「ありがとうございました!村長さんにお大事にどうぞとお伝え下さい」
俺達は車に乗ると次に村役場へ向かった。
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