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【番外編】19.ゲームクリア

必死でキスしていたら静かにトントンと胸を叩かれた。 俺は口を離して佑成の顔を覗き込む。 顔色も良くなってきたみたいだ。 「元気になった?もう大丈夫?」 「ああ、もう大丈夫だ。すごいね、ユイのキスの効果」 佑成が笑顔を見せてくれてホッとした。 辺りを見回して佑成が俺に聞いてくる。 「そういえば剣志は…?」 「お札を持ってあゆみの霊を引き付けて行ってくれたんだけど…無事かな」 衣服についた土埃を払って立ち上がる。 エミのお札は剣志が持っているから、合流しないとゲームはクリアできない。 残りの4枚は車のグローブボックスに入れてあった。 住宅街なので真夜中に大声で呼びながら探すわけにもいかないな… そのとき遠くから声がした。 「おーい!」 声のした方へ二人で振り向くと、剣志が走ってくるところだった。 良かった、無事だった! 「大丈夫か~!霊は巻いたぞー!」 「しーっ!剣志、声でかいよ!」 「お札は?」 折り目のついたお札を剣志はちゃんと握りしめていた。 これで5枚全部揃った! あとは井戸に貼りに行くだけだ。 * * * * * 「え!心臓が止まった!?」 「うん。一時はどうなるかと思ったよぉ…」 「つーかこの世界で死んだらゲームオーバーで、本当に死ぬのか?」 「わからない…」 俺達は村の井戸を目指してアプリのマップを見ながら車で走っていた。 手にした5枚のお札を見ながら剣志がつぶやく。 「このお札を貼れば、元の世界に帰れるんだよな」 「うん。早く帰ろう。お腹空いた…」 「ははっ、たしかに」 「いっちゃんが作ったオムライス食べたいな」 「なんでも作ってあげるよ。とにかく、シャワー浴びてすっきりしたいね。もう汗とか土でドロドロだよ」 「本当だ」 * * * * * マップに従って車で走れるところまで近づいて、車を置いて徒歩で林道に入った。 はあ、もうこんな薄気味悪いところに夜来るのはこれで最後にしたいものだ。 「あった!井戸だ」 木々と枯れ葉の合間に、古びた井戸が見えてきた。 やっとクリアできる~… 俺はそう思って気が緩んでいた。 そして、気づいた時には何者かに後ろから口元を覆われ、こめかみにナイフを突きつけられていた。 「!?」 精一杯首を捻って後ろを見ると、神主の宮坂が蛇のような顔でニヤッと笑った。 そして耳元で小さく「しーっ」と言い俺のこめかみにナイフの先端を触れさせた。 どうして…!? 佑成、剣志…助けて… 小声で宮坂が俺の耳に囁く。 「お札は誰が持ってる?お前か?」 俺は無言で頭を振った。 「じゃあどっちだ?指差せ」 俺は、震えながら剣志の方を指差した。 すると宮坂は少し離れた位置から剣志の方に向き直った。 ちょうどそのとき、剣志が井戸の横に辿り着いて言った。 「よし、お札を貼る…ぞ…?あれ、一樹はどこだ?」 「え?そこに………あっ!剣志後ろ!!」 剣志と佑成が俺と宮坂に気づいた。 「お前…なんでここに!?」 宮坂がニヤニヤしながら言う。 「お札集めご苦労さま。5枚全部集めたようだな」 「一樹を…ユイを離せ!!」 「この子を離してほしければお札を全部こっちに寄越せ」 なんだって?!せっかく集めたのに…! 「この綺麗な顔に傷がついてもいいのか?」 宮坂はナイフの刃を俺の頬に当てた。 冷たい感触が押し付けられて恐怖で足が震えた。 俺は目を瞑って耐えることしかできなかった。 「やめろ!!わかった、お札はここだ」 剣志が5枚のお札を全てポケットから取り出して見せた。 「じゃあ、それを足元に置いて後ろに下がれ」 剣志は言うとおりに足元にお札を置くと、こちらを向いたままじりじりと後ろに下がった。 十分に距離が取れたのを確認すると、宮坂は俺を引きずるようにしてお札に近づいた。 そして俺の耳元で言った。 「ゆっくりかがんでお札を拾え」 俺はナイフを突きつけられたままお札を拾った。 そしてまた引きずられて井戸の前に来た。 「お札を全部この井戸の中に捨てろ」 「え?!」 「な、やめろ!」 せっかく集めたのに…あと少しでクリアだったのに…! 「黙れ。じゃないとこの子の喉にナイフを突き刺すぞ」 「ぐっ」 剣志と佑成は黙った。 宮坂が冷たく言い放つ。 「やれ。落とせ」 俺は震える手でお札を井戸の上に掲げた。 「早くしろ!」 グイッと背中を押される。 目を瞑って俺は手を離した。 そして目を開けると、ひらひらと5枚のお札が井戸の中に舞い落ちていった。 「あ…ああ…だめ…」 どうしよう。あんな下まで降りて取りに行くなんて絶対に無理だ。 大体、もう時間がない。 「ふふ…アハハハハハハ!!ご苦労さん。とんだ無駄足だったな。さて…邪魔なお札は消えたことだしさっきの仕切り直しといこうか」 「え…?」 これで終わりじゃないのか? 宮坂は俺にまたナイフの先を向けると離れた位置に立つ佑成と剣志に怒鳴った。 「おいお前たち!そこから一歩でも動くとこの子の命はないぞ。俺はもう既に人を殺してるからな。1人やるのも2人やるのも同じだってわかるだろ?」 つまり、脅しじゃなく本気でやると言いたいのだ。 「さあ、ユイちゃんとやら。まずその上着を脱ぐんだ」 まさかこいつ、ここでやろうってのか? 「早くしろ!」 俺は黙ってパーカーを脱ぎ落とした。 「どうだ?見ものだろう?屋外ストリップショーだ」 佑成がこちらに向けて叫んだ。 「おい…やめろ!こんなことして何になるんだ!?」 「人生は楽しまないと。さあ、そこの君、次はどっちだ?上か?下か?」 宮坂はニヤついた顔でナイフをショートーパンツの裾に引っ掛けた。 「答えないなら俺が決めようか」 ビッ ショートパンツの裾側からウエストまで、サイドの部分を一気にナイフで切り裂かれた。 「ひぃっ!や、やめて」 裂けた布がひらひらと足にまとわりついた。 「こっちも……そらっ」 ビビーッ 反対側のサイドも縫い目の辺りを引き裂かれた。 それで、ショートパンツはただの布切れになり足元に落ちた。 俺はこれで長めのTシャツ一枚になってしまい、怖くて震えが止まらなかった。 「ぅうっ…やめ…やめて…」 「さぁて…このTシャツはどうしようかな?どこから切ってもらいたい?」 宮坂はナイフの先で裾を持ち上げ、ヘソを露出させる。 「こっちかなぁ?」 今度は脇腹の方を捲る。 俺はただガタガタと震えていた。 すると剣志が言った。 「頼む、もうやめてくれ!何でもするから…これ以上一樹を怖がらせないでくれ」 そして地面に跪いて土下座した。 それを見た佑成も同じように地面に這いつくばった。 「お願いします」 「ああ…はいはい、いいね!青春だ。好きな女の子のために土下座までする、か。じゃあそうだな…うん、こうしよう。このユイちゃんがどっちか一人選んで、その彼とここでセックスして見せてよ」 は? 「選ばれなかった方は残念…悲しいけどおじさんと一緒に生ハメセックス鑑賞といこうよ」 宮坂は心底楽しそうに言った。 狂ってるよ…こいつ。 俺達3人が呆然としていると、宮坂は苛立たしげに俺の後頭部の髪の毛を掴んだ。 「おい、早く選べこのメスガキ。どうせ男2人侍らせていい気になってるんだろ?ちょっと見た目が良いからって調子に乗ってこんな村までしゃしゃり出てくるからこういう目に遭うんだ。大人を舐めると怖いってことをよく肝に銘じるんだな」 「いた、痛い!」 「さあ、どっちだ?どっちとヤる?」 髪の毛を掴んだままグイグイ頭を押される。 佑成と剣志が青ざめた顔で俺を見ている。 ありえない…こんなところでできるわけない。 今何時だ?俺達このままここで…こんな奴の言いなりになって死ぬの? 「いやだよ…」 「何?なんて言った?」 「嫌だっつってんだよこのクソジジイ!!!」 俺はナイフも気にせず振り向きざまに宮坂の金的を蹴り上げた。 掴まれた髪の毛が多少抜けた気がする。 そのまま馬乗りになって宮坂の顔を殴った。 人なんて殴ったこと無いから手が痛くて上手くグーでは当たってない気がするけどめちゃくちゃに引っ掻いたり叩いたりした。 俺が反撃すると思ってなかったのと、俺のことを設定上女と思ってる宮坂には油断があった。 佑成と剣志もすぐに反応して駆け寄って来たが、それより先に、白い霧が井戸の中からブワーッと舞い上がって宮坂に向かってなだれ込んできた。 俺は咄嗟に宮坂の上から飛び退いた。 白い霧は驚き慌てる宮坂の鼻や口から中に入り込んだ。 「うぐぅっ!うがぁああ」 しばらくの間苦しそうに手足をバタつかせていた宮坂は、いきなりすっくと立ち上がると井戸の方に向かってふらふらと歩き出した。 え?どうするつもりだ…? 宮坂は俺達が見ている眼の前で井戸の中に自ら飛び込んだ。 「あっ!」 そしてそれと入れ替わりに井戸の中からお札がすーっと浮き上がってきて、ひとりでに井戸の周りに貼り付いた。 「な…!?どうなってるんだこれ…」 俺達は井戸とそれぞれの顔を交互に見回した。 全員ボロボロだった。 頭上でカラスの鳴く声が聞こえた。 「お…終わり?お札5枚…これで貼れたんだよね?」 「今何時だ?」 「夜明けに間に合った?間に合ってるよね?」 木々の間から光が差してきた。 俺達はヘトヘトで、立ち上がる気力も無かった。 眩しい…疲れた…… 目がくらむほどの光に包まれて、俺は意識を手放した。

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