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第82話 俺の実家に篠田を連れて行く(2)
そして帰省当日俺たちは金沢行きの北陸新幹線かがやき509号に乗っていた。
俺の実家は長野にある。
新幹線で1時間半くらいなので、美月はたまに東京まで買い物に来るのだ。
「新幹線すごい久しぶりに乗るんですけどなんかいいですね」
「俺もずっと帰ってなかったから久々だな。早く弁当食いたい…」
「先輩、まだ乗ったばっかりじゃないですか。まだ11時前ですよ」
篠田に呆れた顔をされる。
いいじゃん、新幹線乗るとすぐ食べたくなんだよ。
東京駅で美味しそうな駅弁を買っておいた。
『政宗公 御膳』だろー、『厚切り牛タン弁当』だろー、それから『黒毛和牛サーロインステーキ弁当』!
篠田に「どんだけ食べるんですか」って言われたけど2人で食べりゃこんなのすぐなくなるだろ。
「先輩って新幹線乗ってる間いつもは何してるんですか」
「弁当食って寝る」
「ははは。じゃあ、お昼まで時間あるし先に寝ます?寝顔見てますね。可愛いから」
篠田はニヤニヤしながらこっちを見ている。イケメンが台無しだろうが…
「何浮かれたこと言ってんだよ。寝ろよお前も」
「はぁ、わかってないですね。先輩のご両親に挨拶するのに緊張して眠れるわけないじゃないですか!」
「そうなの?」
意外~。図太そうなのにね。
いつもは寝て過ごすが、篠田がいたら喋ってるうちにいつのまにか長野駅に着いた。
「母さんが迎えに来てるはずなんだけど…」
辺りを見回したら見覚えのあるシルエットを見つけた。
「あ、いた」
母も俺を見つけて手を振ってきた。
「おかえり~…って、あら一樹!あんたのお友達ってものすごい男前ねえ」
「母さんいきなりそれかよ」
「やだごめんなさい。はじめまして、一樹の母です」
「はじめまして、篠田と申します。一樹さんと一緒に押しかけてしまってすみません」
「いいえ、うちの子がいつもお世話になってます」
立ち話もなんだから、と早速車に乗る。
自宅に着いたら美月が出迎えてくれた。
「篠田さん、お兄ちゃんお帰りなさーい」
「久しぶり、美月結婚おめでとう」
「おめでとう美月ちゃん」
美月は嬉しそうにはにかんでいた。
女だったら今が一番幸せな時期だろうな~。
男の俺はこれから受難が待ち受けてるぞ。
「お父さんは今日町内会の日帰り旅行があってね、夜には帰るから」
「そっか」
よし、それならまず父に話す前に女性陣を味方につける作戦で行こう。
池沢家では俺と母親がキッチンに立つ。
美月は篠田と一緒に犬のてっぺいと外で遊んでいた。
「てっぺい元気だね」
「ええ、でも実はこの前お腹壊して病院に行ったのよ」
「え、そうだったの?」
「もう年だからねぇ」
「そうか…」
「お母さんも年取るわけよ」
ん?なんだこの前フリは。
人参を切りながら母が言う。
「それにしてもあんたより美月が先に結婚するとはねぇ」
そう来たか…でも話をするチャンスだな。
「そのことなんだけど、母さんに話があって今回帰ってきたんだ」
すると母はちょっとうれしそうな顔でこちらを見た。
「え?!もしかしてあんたも?」
「あー…えっとなんていうか…」
やーべ、変に期待させちゃったか。でももう言うしかない。
「俺、篠田と付き合ってるんだ」
「………え?」
「あー、意味わかんないよね」
母は驚いて目を見開いている。
「だって、あんたずっと彼女とっかえひっかえして…女が好きなんだと…」
「いや、女が好きなんだけど。篠田は特別っていうか」
そして急におかしなことを言いだした。
「ああ…あーーーあーーーお母さんの負けだわ…」
「は?」
母は人参と包丁を置くとエプロンで手を拭いて窓を開け、てっぺいと戯れてる美月に声を掛けた。
「ねーえ、美月!」
「え?何お母さん」
「あんたの勝ちだったわぁ」
「え!やっぱり!?やった!!」
「いやぁまさか本当にお兄ちゃんが男の人とねぇ…」
は?なに??
どういうこと?
すると美月がドヤ顔で言った。
「ほら、言ったでしょう。お兄ちゃんは篠田くんと付き合ってるって!」
俺と篠田は衝撃でしばらく身動きできなかった。
まさかこいつら…
ーーー賭けてた?
「はい、私の勝ち~!」
「わかりましたよ、お母さんの負けです」
え?何楽しんじゃってんの??
「あ、お兄ちゃんたちごめんね。急に2人で帰ってくるっていうからお母さんにだけは話通しておいたほうがいいかなって。でもお母さん信じてくれなくて。賭けてもいいって言ってこんなことに…」
「お前なぁ…」
でも、よくわからんけど結果的に簡単に母を納得させられた…のかな?
「篠田くん、一樹みたいなので本当にいいの?あなたなら女性もよりどりみどりでしょうに。よりにも寄ってうちの一樹だなんて…」
そっちの心配するんかい!
「勿論ですお母さん。僕は一樹さんじゃないとだめなんです」
「うわぁ…ちょっとお兄ちゃん!聞いた?こんなイケメンにどうやったらこんなこと言わせられるわけ?お母さんちょっと感動したわよ」
「母さん…」
俺はちょっと頭痛がしてきた。
「一樹さんは僕が必ず幸せにしますので交際をお許し下さい」
「はぁ…なんて素敵なの。母さんが20歳若かったら…」
まぁ、俺と母さんはそっくりってよく言われるからもしかしたら20歳母が若かったら篠田が惚れてるかもな。
それにしても、この調子なら父さんもあっさり交際認めてくれるんじゃね?
そんなふうに思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
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