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第83話 俺の実家に篠田を連れて行く(完)
「けしからん!!」
俺が父に篠田を彼氏として紹介したら開口一番こう言われた。
はぁ…ですよね…
「一樹お前、全然実家に寄りつかないと思ったらこんな不純同性交友を行っていたとは!」
あー…出た出た。
俺の父親は昔ながらの銀行員でとにかく頭が固いんだよなぁ。
それにしても不純同性交友って。
まぁ、俺達のしてることといったらあんなことやこんなことなので不純っちゃ不純だ。否定できないな。
「大体君みたいなチャラチャラした茶髪の男がなんだってうちの息子なんかを。血迷ったことを言ってないでちゃんとした女性と付き合いなさい、一樹も30にもなって全く…」
「父さん、篠田の茶髪は地毛だよ。お母さんがフランス人とのハーフなんだって」
「何?地毛なのか。ふん、まあそれならいいが。それにしてもその見た目じゃぁチャラチャラしていると言われても仕方がないだろう」
「見た目で判断すんなよ。篠田は高校のときはゴリゴリに体育会系だったんだよ。な?」
父は体育会系脳で上下関係に厳しい。そこを突いて行く作戦に切り替えだ。
「体育会系だって?何をやっていたんだね?」
「僕は水泳をやってました」
「…何?水泳だって?」
父の顔つきが変わった。
「どこの高校だ?私も水泳部だったよ。なんだ君、泳げるのかね」
ふっふっふ。そう、これが切り札じゃ!
篠田と父の共通点、それは水泳!
「はい。緑丘高校です。そこまで速くはなかったですけど」
「待てよ?緑丘高校の篠田?ん?ちょっと待て…その顔…いや、そんなまさか」
父が視線を宙に彷徨わせてぶつぶつ言い始めた。
そして意を決したように篠田へ質問した。
「君、まさかお父さんも水泳をやっていたんじゃないのか?」
「はい。父もずっと水泳をやってたんで僕も小さい頃から泳ぎを叩き込まれました」
「……名前は?お父さんの」
「誠一です。まことの誠に漢数字のいちで」
「なんてこった…まさか…緑丘高校の魚雷が…」
父のつぶやきを聞いて篠田が驚愕した。
「え、なんでご存知なんですか?」
魚雷?
「私が高校時代にインターハイで魚雷の異名を取っていた選手がいた。やはり君のお父さんかね?」
「はい。父は魚雷ってあだ名だったって聞いたことがあります」
「なんてことだ…緑丘高校の魚雷の息子が目の前に…!いや、すまないチャラチャラしてるなんて言ってしまって」
「いえ…でもまさか父をご存知とは」
「私はインターハイには出場出来なかったが、先輩の応援で見に行ったよ。そこで君のお父さんは不気味に水の中を突き進む魚雷のようだと言われていた。しかも水から上がるとハンサムでね、女子は騒ぐし私達男子生徒から見ると羨ましかったね」
水泳やってた同士で話が弾めばな~なんて思ってはいたけどまさかそんな繋がりが…
そこからは頭の堅い父も篠田にすっかり気を許してくれて最後は意気投合して酒が入っていたこともありお互いの校歌を披露しあっていた。
何やってるんだこの人達は…?
「それで篠田くんは一樹のどこがいいんだね?」
「全部ですね!」
「ハッハッハ!男らしくていいじゃないか君!気に入ったよ、さあもっと飲んで飲んで」
「いただきます」
「いやあ、息子が増えたみたいでいいな。しかし一樹のどこがいいのかはわからんがね!あっはっは」
え、ちょっと酷くね?
さりげなく俺をディスるのやめてくれよ。
「何を仰るんです、一樹さんはお母さんにそっくりじゃないですか。僕とお父さんは趣味が合いますよ」
「え?ああ、たしかにそうか。なるほど!本当だ!」
めちゃくちゃ意気投合してるからもういいか…
俺は母と美月と一緒に、リビングの男二人を眺めながらダイニングテーブルで飲んでいた。
父を見ながら美月が言う。
「お兄ちゃん、お父さんもなんとかなってよかったね」
「ん?ああ。この展開は予想してなかったけどな」
「そうだね。お父さんが最後まで反対するようなら私が口をはさもうと思ってたんだけど」
父は美月にデレデレなので、たぶん「お父さん嫌い」とか言ってくれたら良い援護射撃になっていたはずだ。
でも美月の出る幕は無く、篠田(というか篠田の父)が父を籠絡してしまった。
「篠田くんて不思議な子ねぇ、あんな美形で一見チャラチャラしてるのにお父さんを手なづけちゃうとは」
「うん。あんな見た目だけど俺のこと好きな時点でなんかおかしいしな」
「自分でそういう事言う?」
「ねえ、指輪見せてよ。それ結婚指輪?」
「あー…うん。一応」
「いいわねぇ、ラブラブじゃないのあんたたち」
「あ!そうだお兄ちゃんに渡すものがあったんだ!」
美月が部屋に行って紙の束を持ってきた。
それをテーブルに置く。
「これ、どうかなって」
「なんだこれ?」
パラっと捲るとそれはハワイ挙式のパンフレット…?というかサイトの情報をプリントアウトしたものだった。
「ああ、お前の結婚式をここで挙げるのか?」
「んーん、ちがう。ここ見て」
「あ?」
”同性婚”と書いてあった。
美月の顔を見たらにやりと笑っていた。
「どうせならお兄ちゃんたちも式挙げちゃいなよ!ハワイは同性婚が合法なんだって」
「え…俺たちが?」
それは考えてなかった。
ただ篠田と一緒にハワイ旅行できるじゃんって思っただけだったんだけど…
そうか、これなら篠田の白タキシード見れるんだ。
篠田のお母さんも喜ぶかも。
俺は父と談笑する篠田を見た。
あいつはなんて言うかな。
* * * * *
風呂上がり、寝支度を整えた所で篠田にさっき美月がくれた資料を見せた。
「なにこれ!こんなのやりたいに決まってるじゃないですか!」
「え、ほんとに?」
「やろう、一樹さん!わー、美月ちゃん気が利くなぁ」
「まじか」
「さすがに日本でやろうとは思わなかったけど、ハワイで身内だけなら全然アリじゃないすか」
篠田はめちゃくちゃ乗り気だ。
そっか。ハワイで身内だけなら…ノリでやっちゃうか。
母さんが俺のベッドの下に篠田の布団を敷いてくれてたけど篠田は当然のように俺のベッドに潜り込んできた。
俺の腹に回ってきた手がスウェットのウエストゴムから中に入ろうとしたのでピシャリと言う。
「変なことするなよ」
「……はい」
「なんだその間は」
手がすごすごとスウェットから出ていき、篠田は俺の腹の前で指を組んだ。
「いえ、なんでも。あ、明日お父さんと市民プール行くことになりました」
「はあ?まじで??」
どんだけ意気投合してんだよ…
「先輩も行きましょうよ~」
「やだよ、2人で行ってくれ」
なんだよ、じゃあ俺は地元の友だちにでも会うか。
「先輩とプール行きたかったぁ」
「俺の親父で我慢しろ」
しばらくブーブー言っていたが、さすがの篠田も緊張して疲れていたと見えて割とすぐに寝息が聞こえてきた。
はぁ、とりあえず父親が納得してくれて良かった。
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