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第6話
今から六年ほど前。高校一年生の夏、柚希は「コミックマーケット」なるものに初めて足を運んだ。
同人イベントとしては最大級の規模を誇るコミックマーケット――通称「コミケ」は、夏と冬の年に二回、東京ビックサイトで行われている。アニメや漫画といった日本のサブカルチャーが存分に味わえるイベントで、ここでサークル活動している人の中からプロの作家になっていく人も大勢いた。既にプロとして商業活動している作家さんが趣味としてイベントに参加することもあった。
そんなサークルがそれぞれのブースを構えている中、
(あれ? この人……)
まだ大学生くらいの青年が店番をしているのを見つけた。女性が多いサークルの中で、若い男性がブースを出しているのは珍しい。しかも作家のイメージにそぐわない爽やか系美青年だったので、つい目を引かれてしまった。
(この人、何書いてるんだろ……)
ちょっと興味が出て来て、そのブースに近付こうとしたら、
「わっ!」
急に目の前を横切った人とぶつかってしまった。はずみで柚希は地面に転げた。ぐしゃ、と何かが潰れる音がした。
「おい! てめぇ、どうしてくれんだ! やっと手に入れたグッズがぐしゃぐしゃになっちまったじゃねーか!」
「えっ……?」
上からいきなり男に怒鳴られ、目を白黒させる。何事かと思って足元を見てみたら、その下に紙袋が挟まっていて、袋に描かれていた美麗な女の子のイラストが醜く歪んでいた。
「あっ……す、すみません……」
「すみません、じゃねーんだよ! これ、朝からずっと並んで手に入れたヤツなんだぞ!」
「で、でも、今のはお互い様なんじゃ……」
「うるさい! お前、もう一度この商品買って来い!」
「そんな……」
柚希が困り果てていたら、ブースを設けていた男性がすっ……と立ち上がってこちらにやってきた。
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