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第12話
「そうか……ありがとう」
けれど十夢は、短く答えただけであっさり視線を外してしまった。微笑んでくれることもなければ、個人的な言葉をかけてくれることもなかった。
(え? な、なんで……?)
どうして全然反応してくれないんだろう。どうして再会を喜んでくれないんだろう。もしかして十夢先生、おれのこと忘れてしまったんじゃ……?
(そんな……)
あなたが褒めてくれた声なのに。顔は忘れても声を聞けば思い出してくれると思ったのに。おれは先生のこと、六年間ずっと想っていたのに……。
言葉を失って硬直している柚希に、監督が声をかけてきた。
「どうしました? 早く演じてみてください」
「は、はい……すみません……」
柚希は慌ててオーディション用の台本を開いた。
心臓がバクバクして落ち着かない。指先も冷たくかじかんで、手から汗が滲んでくる。何より十夢先生に忘れられたことがショックすぎて、本気で泣きそうになった。
(で、でも、なんとか頑張らないと……)
一度深呼吸をし、柚希は台詞を読み上げた。
「『自分の色を忘れた白雪が、今年も静かに降り積もっていく。俺は一体いつまでこの色を眺めなければならないのだろう。一体いつになったらこの想いは解けるのだろう。蓄積された冷たさから解放される日は、……来るの、だろうか』……」
感情が昂って、不覚にも言葉に詰まってしまった。次の台詞を読み上げようにも声が掠れて言葉が出て来ない。
焦っているうちに、演出家の女性からストップをかけられてしまった。
「ああ、もう結構です。お疲れ様でした」
「えっ? でもまだ……」
「大丈夫です。では『2』番の方、お願いします……」
有無を言わさない切り上げ方だった。
頭のてっぺんから血の気が引くのを感じながら、柚希はふらふらと自分の席に戻った。
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