13 / 29
第13話
オーディションが終わり、柚希は半ば放心状態で会場を出た。
今回ばかりは精神的ダメージが大きすぎる。十夢先生の目の前で失敗してしまったこともそうだけど、彼に忘れられていたことが一番のショックだった。完全に片想いだったと思い知らされ、悔しさのあまり涙が出た。
滲んだ涙を一人で拭っていると、
「柚希~……そんなに落ち込むなよー……」
同じくオーディション帰りの永野が声をかけてきた。
「お前、そんなにこの仕事やりたかったのか?」
「……やりたかったです。おれ、十夢先生の作品に出たくて声優になったようなものなので……」
「ふーん? でもあの人、売れてきたのは最近じゃねーの? 俺、今回の作品だってオーディション受けることになって初めて知ったし」
「それはみんなの見る目がないだけですよ。十夢先生の作品は昔からすごく面白かったです」
「あれ? あの人、そんなにいっぱい作品出てたっけ?」
「出てますよ! 紙になってないだけで、電子書籍はいっぱい出てます!」
「……そんなムキになるなよ。わかったって」
永野はやや呆れた様子でひらひらと手を振った。
(……どうせわかんないよ。おれがどんなに十夢先生を想ってるかなんて)
無名時代からずっと好き。全国にいる十夢先生のファンの中でも、彼に対する愛情はトップクラスだと自負している。新刊の告知がある度に予約購入し、ツイッターをフォローし、ホームページも頻繁にチェックしてきた。始めて買った同人誌を常に持ち歩き、今も大切に読み続けている。
それなのに、十夢先生の方は……。
「……ん? おい、柚希。あれ十夢先生じゃね?」
「えっ?」
ハッとして顔を上げる。エレベーターホールを涼やかな青年が一人で歩いているのが見えた。
「あっ……」
見間違えるはずもない。あれは十夢先生だ。今日の審査は終わったのか、どこか足取りが軽くなっていた。
「十夢先生!」
堪えきれず、柚希は彼の元に走り寄った。彼は足を止めてこちらを振り返った。
ともだちにシェアしよう!