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第15話

 十夢先生の自宅アパートは、都心から少し離れたところにあった。  柚希は少し離れた場所からじっと十夢を睨みつけた。彼はアパートの階段を上がり、二階の一番右端の部屋に入って行った。 (……嘘つき)  これから用があるって言ったくせに。用があるどころか、そのまま家に直帰してるじゃないか。そんなにおれと話すのが嫌だったのか。だったらつまらない嘘なんかつかずに、普通に「きみとは話したくない」と言ってくれた方がまだマシだった。下手に嘘をつかれるとかえって傷つく。  柚希は一気に階段を駆け上がり、部屋をよく確認してから呼び鈴を鳴らした。しばらくしてドアフォンから声が聞こえてきた。 「はい?」 「……先生、おれです。高島柚希です」 「えっ、柚希くん? ちょっと待ってね」  驚いた声が聞こえた数秒後、ドアがガチャ、と開いて十夢先生が出てきてくれた。かなり困惑している様子だった。 「いらっしゃい……。どうしたの、いきなり」 「……どうしても先生と話したくて。今いいですか」 「いや、それは……」  十夢は軽く周囲に目をやっていたが、 「……まあいいか。どうぞ」  と、中に招き入れてくれた。  アパートは男性の一人暮らしにしては広めの2LDKで、仕事部屋と普段の生活スペースをきっちり分けているようだった。小綺麗なリビングには縦長のソファーがあって、すぐ近くのサイドデスクには立派なオーディオセットが置かれている。 「適当に座ってて」  柚希にソファーを勧め、十夢はキッチンに入っていった。そして数分後、二人分のマグカップを持って戻ってきた。 「びっくりしたよ、いきなり訪ねてくるから……。話って何?」 「……先生が悪いんですよ」 「えっ?」 「先生がおれのこと、無視するから……」  柚希は膝の上で拳を握り締めた。無意識に拳が震えた。 「おれ、初めて会った時からずっと十夢先生のことが好きでした。多分、おれ以上に先生のことが好きなファンなんていないと思います」 「柚希くん……?」 「だからこそ許せないんです。どうしても」  そう言って十夢を睨みつけたら、彼は困った顔でこちらを見た。何故睨まれているのか、わかっていないようだった。

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