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第16話
柚希は低く唸るように聞いた。
「……先生、本当におれのこと覚えていないんですか? この声を聞いてもまだ思い出せないんですか?」
「いや、それはね……」
「自分で『ニューハーフボイス』って名付けたくせに?」
曖昧な顔をし続ける十夢に、いい加減堪忍袋の緒が切れた。柚希は十夢の肩を乱暴に掴んで訴えた。
「おれはもともと自分の声が嫌いでした! でも先生に会った時、初めて自分の声に自信が持てるようになったんです! こんな声でも『好きだ』って言ってくれる人がいるんだって! だから先生に勧められた通り、声優を目指しました! 先生にこの声を届けたい一心でずっと頑張ってきました! なのに、なのに……」
「ちょっと柚希くん、落ち着いて……」
「あなたが悪いんですよ! あなたがおれの気持ちを踏みにじるから! おれのこと忘れた挙句に裏切るから!」
「柚希くん……」
「なんでおれのこと、わかってくれなかったんですか……」
最後の方は怒鳴りながら泣いていた。十夢に縋りつき、自分の想いを全部吐露する。
「おれにはこの声しかないんです……。この声で『高島柚希』だとわかってもらえなかったら、おれなんてそこら辺に転がってる石ころと同じだ……。先生はおれを石ころにするんですか……? 先生がおれの声、『素敵だ』って褒めてくれたのに……先生が『声優に向いてる』って言ってくれたのに……それを全部なかったことにするんですか……?」
「…………」
「おれの今までの努力は……先生に対する想いは、一体何だったんですか……」
十夢の膝の上で、感情のまま泣きじゃくる。
「…………」
十夢はしばらく何も言わなかった。柚希の荒れ狂う感情を静かに受け止め、嵐が過ぎ去るのを待っているようだった。
ようやく泣き声が収束しかけた時、十夢はそっと柚希の髪を撫でてきた。優しく包み込むように頭を抱え、静かに口を開く。
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