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第17話
「ごめんね、柚希くん。僕の態度がきみを傷つけてしまったみたいだ」
「……何を今更……」
「そうだね。今更こんなこと言っても言い訳にしか聞こえないかもしれない。でも柚希くん、僕はきみのことを忘れたことなんて一度もないよ。だから今日再会できて本当に嬉しかったんだ。きみが僕のファンでいてくれたように、僕もきみのファンだったから」
「……嘘です、そんなの。だったらなんで……」
その時、不意にオーディオセットのスイッチが入った。自動録音を設定していたらしく、ラジオのCMが数秒流れた後にとある番組が始まった。
『皆さん、こんばんは。高島柚希です。今夜も『きみにVOICEを』の時間がやって参りました……』
ハッとして、スピーカーに釘付けになる。自分の声がそこから聞こえてくる。
(この番組……)
通常の放送は毎週金曜日の午後九時からだが、毎週土曜日の午後五時からは、前日に放送した番組を再放送しているのだ。その再放送の番組を、わざわざ録音までして聞いてくれているのか……?
戸惑っている柚希に、十夢はにこりと微笑んだ。
「毎週二回、必ず聞いてるんだ。きみの声を聞いていると元気が出るから」
「えっ……?」
「時間があればハガキを投稿することもあるんだけど、これがなかなか読み上げられなくてね。この間、初めて読まれてちょっと嬉しかったよ」
「えっ? いや、そんな……おれ、先生のハガキなんて読んでません。投稿されたハガキは毎回全部名前をチェックしてます。『叶十夢』なんて名前、どこにもなかったですよ?」
「『叶十夢』じゃないよ。投稿ネームは『とみー』だ。『叶十夢』で投稿すると売名行為だって思われるかもしれないからさ」
「え? え?」
「柚希くん、気付いてなかったのかな? もう何回も投稿してるはずなんだけど……」
「ええっ? 嘘だ!」
「嘘じゃないって。まだハガキが残ってるなら確かめてごらん。ここの住所と僕の本名が書いてあるはずだから」
「そんな……」
「あとファンレターもね。柚希くん、そっちも気付いてない? 封筒の名前は本名だけど、中身を読めば『叶十夢』ってわかるようにしたんだけどなあ……」
「!?」
頭を思いっきりぶん殴られたような衝撃があった。
(そんな……嘘でしょ……?)
ハガキやファンレターのチェックは欠かさないのだが、『叶十夢』という名前ばかり探していたので、他の名前は完全にスルーしてしまっていた。十夢先生の手紙じゃないのなら内容なんてどれも同じだと思い、中身はあまり読まず適当に処分していた。
そのハガキやファンレターのどこかに、十夢先生直筆の手紙が混じっていた? それどころか先日放送したラジオの中で、十夢先生が投稿してくれたハガキを読み上げていた? そんな……そんなことって……。
動揺して青ざめている柚希に、十夢は更に言う。
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