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第18話
「柚希くんが頑張ってたこと、ちゃんと知ってるよ。コンプレックスだった声を武器に変えて、実力だけではどうにもならない世界で努力し続けてきた。だから僕も、いつかきみと仕事がしたいなって思ってたんだ。僕が生み出したキャラクターにきみが命を吹き込んでくれたら、こんなに嬉しいことはないもんね」
「う……」
そう言われても、柚希には未だに納得できないことがあった。
「でも、でも……だったらどうして今日はあんなに冷たかったんですか? おれ、ちゃんと名乗ったし、『ずっとファンだった』とも言いましたよね? それなのに、なんで終始無反応だったんですか?」
「それはほら……今はオーディションの最中だから。結果が正式に通知されるまでは、あまり親しくしない方がいいかと思って」
「だからなんで……?」
「オーディションは建前上、公正に行わなければならないだろう? 審査員と声優に個人的な関係があるってバレたら、余計な勘ぐりをされかねない。実力で主役を勝ち取ったのに、『あいつはコネで選ばれた』なんて言われたら嫌じゃないか」
「それは……」
「だから、あえて他人のフリをしていたんだよ。本当はその場でいろいろ話したかったけど、結果が出るまでは辛抱しておこうと思ってね」
「じゃあ、おれのこと差し置いてファンの女性にサインしてたのは……?」
「だって、彼女はオーディションとは無関係の普通のファンでしょ? そりゃあ頼まれればサインくらいしますよ」
「じゃ、じゃあ……『用がある』って嘘ついたのはどうして? 先生、オーディション会場からそのまま直帰しましたよね?」
「うん、書きかけの原稿がまだ残ってたからね。だから早く家に帰って仕事しようと思ってたんだ。別に嘘じゃないよ」
「ええ!?」
「というか柚希くん、なんで直帰したって知ってるの? もしかして、ずっと僕のことつけてた?」
「あっ……! それは、その……ごめんなさい……」
言われてようやく自分がストーカー行為を働いていたことに気付き、一気に罪悪感がこみ上げてきた。
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