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第19話
しょんぼり肩を落としていると、十夢が苦笑して言う。
「まあいいけどね。普通のストーカーは困るけど、柚希くんは特別だ。きみは無名時代からずっと僕を応援してくれた。挫けそうになっていた僕を励まして、『面白いです』って言ってくれた。柚希くんに会えなかったら、僕はとっくに筆を折ってたと思う」
「っ……」
「ありがとう、柚希くん。きみみたいなファンがいてくれて、僕は本当に幸せだよ」
目の奥が熱くなる。胸が締め付けられ、再び涙がじわじわ溢れてきた。
(なんだよ……全部おれの勘違いだったんじゃん……)
忘れてなんかいなかった。柚希が十夢のことを応援し続けていたように、十夢も柚希のことを応援してくれていたのだ。忙しい合間を縫ってハガキを投稿してくれたり、ファンレターを書いてくれたりもした。柚希がただ気付いていなかっただけで。
それなのに十夢先生の思いやりを汲み取れず、冷遇されたと思い込んで、忙しい彼の自宅まで押しかけた挙句、子供のように感情をぶちまけて泣きじゃくる……。
(ホントにおれ、何してるんだろ……)
怒りに沸騰していた頭がようやく静まってきた。
柚希は十夢の膝に縋りつき、何度も謝罪した。
「先生、ごめんなさい……おれがバカでした……。先生は何も悪くありません……全部おれが悪かったです……。ホントにごめんなさい……許してください……」
「もちろん許すよ。勘違いされるような態度を取った僕も悪かったし、柚希くんの立場じゃ怒りたくなるのも無理はない」
優しく頭を撫でられて、ますます罪悪感が大きくなった。
「……先生は優しすぎます。もっと怒ってくださいよ。こんな無茶苦茶なことを一方的に言われたら、誰だって腹立つでしょ……」
「僕が腹を立てるのは、自分の作品を冒涜された時だけだよ」
「え……?」
「僕の作品をちゃんと理解していない人が、変な言いがかりをつけてきたりクレームを入れてきたりしたら反論するけどね。でも、それ以外のことだったらあまり腹は立たないかな。ましてや柚希くんは僕の作品を僕以上に愛してくれている。そんな子に腹を立てるはずないじゃない」
「十夢先生……」
「僕らはちょっとすれ違っていただけ。でも結果的にこうやってわかりあえたんだから、もういいんだよ」
「っ……」
心臓がキュンと甘く疼いた。
穏やかで優しい十夢先生。感情的にならずに、駄々っ子のような柚希を辛抱強く宥め、大人の余裕で包み込んでくれる。柚希が何を言っても、腹を立てることなく笑って許してくれる。
そんな素敵な人だから、おれは……。
「……先生、大好きです」
「ありがとう。僕も好きだよ、柚希くん」
また涙が溢れて来て、柚希は泣いた。
その間、十夢はずっと頭を撫で続けてくれた。
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