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第20話
一週間後。オーディションの結果が事務所経由で通知された。
絶対不採用だ……と思っていたので、自分宛に届けられたA4サイズの封筒が意外と分厚いことに驚いた。不採用なら、ペラペラの紙一枚しか入っていないはずだ。
(もしかして……)
はやる気持ちを抑えて中を確認してみたら、封筒にはドラマの台本とキャスト表の一覧が入っていた。しかもキャスト表にはこう記されていた。
『雪平椿(21):高島柚希』
「えええぇぇ!?」
キャスト表を握る手がぶるぶる震える。夢かと思って目を擦ってからもう一度確認してみたが、やはり見間違いではなかった。
雪平椿とは、「白い想いが舞う中で」の主人公であり受け役である。こんな大役が与えられるとは思ってもみなかったので、新手のドッキリなんじゃないかと疑いかけた。オーディションでは失敗してしまったのに、何故……。
(まさか十夢先生が……?)
なんとなくそんな気がして胸が疼いた。
いても経ってもいられなくなって、柚希は十夢の携帯に電話をかけた。
数コールの後、十夢の声が聞こえてきた。
「柚希くん?」
「あ、先生? おれですけど、今日オーディションの結果が発表されて……」
***
電車を乗り継ぎ、小一時間くらいで十夢先生の自宅アパートに到着した。
柚希は一気に階段を駆け上がり、十夢の部屋の呼び鈴を押した。早く先生に直接結果を報告したくて、ドアが開く時間さえもどかしかった。
「いらっしゃい。待ってたよ」
柚希をリビングに通し、十夢はソファーに腰かけながら嬉しそうな笑みを向けた。
「柚希くん。この度は主演抜擢、おめでとう。僕も鼻が高いよ」
「またまたぁ。この配役、先生が推してくれたんでしょ?」
「いや、僕に決定権はないよ。多少意見はしたけど、最終的に決めたのは監督さんだ」
「それでも嬉しいです。キャラクターのイメージを壊さないよう、しっかり演じ切らなきゃ」
「ふふ、そうだね。それで台本は持って来た?」
「もちろんです」
と、鞄から台本を取り出す。冒頭からサッと目を通してみたけれど、BLの脚本だからか、意外と恥ずかしい台詞が多かった。普通のアニメでは絶対に言わないであろう台詞ばかりなので、少々戸惑ってしまった。
「あ、やっぱりベッドシーンあるんだ……。大丈夫かな……」
「おや、不安なの?」
「不安というか、こんなシーン演じたことないので……。いえ、そんなこと言ってられませんけど」
「なるほどね。じゃあこの際、ちょっと役作りしてみるってどうだろう」
「役作りですか? そりゃあできればしておきたいですけど、どうやって?」
「そりゃあ、こうやって……」
言うやいなや、十夢が手を伸ばしてきて股間に触れてきた。
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