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encounter.Ⅰ-VⅡ

――君がどちらを選んでも、最後には僕が勝つ。 歩くのが億劫になって捕まえたキャブの中、彼が去り際残した文句の意味を考えた。単にカニバルのキャラクターが生んだ決め台詞かもしれないが、自分が選ばれなかった場合、敵を…ナイトメア(ロンドン警視庁)を破壊する宣告とも取れる。 ”私がどちらかを選んだ場合、どうなると思いますか” 押し付けられた方でない。自分のモバイルからナイトメアへメッセージを送れば、僅か数分後に着信音と共に返答が戻る。 『選ばれなかった方が消える、と私は見ている』 消えるの意味はどうあれ、概ね同意する。自分が内情を渡した方が明らかに有利で、プライドの戦いなどと言いつつ、その後血生臭い展開になるのは目に見えている。 (カニバルの言う勝利、とは何だろう) ナイトメアとの一騎打ちに勝つ、という意味か。もっと大局の話で、我こそが英国を手にするという確信か。 ”貴方が私に英国の明日を託した理由は?” 巨大な竜巻に巻き込まれて眩暈を覚えながら、ラストはもう一方の人となりも探るべく文字を打つ。 『倒産寸前のフラット社を救って上場させた凄腕のコンサル、それが君だと言う話だ』 今度は1分も待たず返事が来た。 自分は唯の送迎ドライバーだが、確かに何だかんだ雇用主の尻を拭っていた覚えはあった。しかしスコットランドヤードと犯罪者の喧嘩に巻き込まれるほど、この街で悪目立ちしたつもりはない。 穏便に人生を楽しんでいた。 毎日オートミールを浸したポリッジを温め、慎ましやかな朝食を摂り、雇用主のぼやきへ適当な相槌を打ちながらセダンを走らせる。 自分だけレールを外された様で癪だ、正に2人の都合でプロットを書き換えられたのだから、自分も連中を振り回してやりたかった。 どうするのが良いだろう。いっそ情報提供の見返りとして、月の石でも取ってこいと無茶を言い付けてやろうか。 『楽しいかい、ラスト』 また音が鳴り、無意味なテキストが届く。 ラストは目を瞬き、釈然としないまま間髪容れぬ返信を打った。 ”嫌味ですか?” 『まさか、君の今の生き方は能力に比べて余りに狭い。諜報活動が嫌だと言うのなら、さっさと降りてウチで働くといい』 ”私に選んで欲しいのなら、顔くらい見せるべきでは?” 『もちろん私も早く君に会いたい。だがその為に書類を10枚は書かねばならない、もう少し文通の関係といこうじゃないか』

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