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夕立

惚れた腫れたって騒ぐ年はとうに過ぎてる。 若い連中みたくイチャイチャする年でもない。 伊澤が側にいてくれる。 酒を飲みながら他愛もない話しでも、耳を傾け、黙って頷いてくれる。 それだけで十分幸せだ。 「なぁ、根岸」 「なんだ?」 「奏音を見てると昔を思い出さないか?」 「何を急に言い出すかと思ったら……確か、悠仁は2歳くらいだったかな。なかなか寝てくれないし、夜泣きはするし、ちょっちゅう熱は出すし、深夜に伊澤を何度呼び出したことか」 「連勤明けに呼び出されるくらいなら一緒に暮らした方がいいって。たった1年だったけど、あんときが一番楽しかったな」 「俺もだ。そのとき、プロポーズしてれば、29年も待たせることはなかったんだな。悪かった」 「気にしてないよ」 微苦笑するとぐいと一口、ビールを喉に流し込んだ。 「伊澤、遼成の申し出を受けることにした。一緒に付いてきてくれるか?」 「いちいち聞かなくても、俺はもう根岸の側から離れる気はないよ」 「ありがとう」 「だから、いちいち礼はいらないって。しかしまぁ、よく降る雨だな」 恥ずかしいのか話題を逸らし、空を見上げた。 「伊澤」 「ん?」 「愛してる」 「いちいち言わなくても分かってるよ」 「オヤジが言ってるだろう。相手の目を見てちゃんと面を見て話せって」 しばらく無言で見つめ合うと、伊澤が観念したように目を閉じた。 顔を近付けようとしたら、 「じぃじ」 奏音の声が聞こえてきて、慌てて体を離した。 キスはお預けだな。伊澤が苦笑いしならコップに残っていたビールを一気に飲み干した。

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