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ふたりの出会い
根岸と伊澤が出会ったのは30年前の7月だ。
日曜日の昼過ぎのS駅。
溢れんばかりの人でこみ合う改札口で前で、同僚と張り込みを続けていた伊澤は、ある二人連れに目を留めると思わず眉を寄せた。
男の一人は、指定暴力団龍一家の幹部、播本。32才という若さながら人望と男気に溢れ、組長の信頼も厚い将来有望な男だ。
隣にいる青年は初めて見る顔だった。
歳は20代後半ぐらいか。背は175センチ前後。細いが均整の取れた体格でスタイルがいい。
思わず目を引かれる整った目鼻立ちをしていた。
改札口前で誰かと待ち合わせをしているのだろう。
伊澤は、仕事に集中しなければ、と二人から目を離したものの、青年はその後もしきりに視界に入ってくる。
見るたびに気になってしまう青年を、なるべく見ないようにしながら、容疑者がやってくるかも知れない改札口を睨み続けた。
伊澤は今年で29歳。
大学卒業後刑事になり、現在はS署の捜査一課に配属されている。
180を越えた長身に、着痩せして見えるものの、しっかりと筋肉のついた体は、さすが刑事というところだが、彼が刑事だと一目で気づくものは、恐らく播本以外そうはいないだろう。
常に辺りに対して注意深く視線を走らせている播本。
伊澤が張り込んでいることにもすぐに気付いた。
「根岸」小声で隣にいるカバン持ちの青年に話し掛けた。
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