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これからも、ずっと側に
ー劣悪な環境で育ったことはご存じですね?ー
「あぁ、根岸から聞いてる」
ー育ち盛りなのに一日一食しか与えられず、空腹に耐えきれなくなると、蛙や蛇を捕まえて、火を起こし炙って食べて、飢えを忍んでいたそうです。ここに来たばかりの頃、蛙をよく捕まえてきたんですよ。柚原に、ごく普通に火で炙って欲しいって頼んでいて、言葉を失いました。そのことを知り、一番ショックを受けたのは未知さんです。もう二度とひもじい想いをさせたくない。お腹いっぱいご飯を食べてあげてって頼まれましたー
「そんなことがあったんだ。全然知らなかった。ありがとう橘。聞いて良かった」
浴室からは奏音と亜優の賑やかな声がもれ聞こえていた。単身向けの狭いバスタブ。三人で一緒に入るのはかなり無理があるが、どういうわけかふたりとも根岸と一緒に入りたがる。
ーわざわざそんなことを聞くために電話を掛けてきたんですか?ー
「やっぱり橘には隠し事が出来ないな」
ひとつすっと息を吐いて、
「どうしたら焼きもちを妬かなくなるか、教えて欲しい。奏音に焼きもち妬いて、亜優にまで焼きもち妬いて、もうどうしていいか分からないんだ」
受話器の向こう側で橘が笑う声が聞こえてきた。
ー今度女子会でも開きますか?お茶を飲みながら、先輩人妻さんたちに悩みを聞いてもらったらどうですか?ー
「それいいな。でもな……」
ー年は関係ないですよ。気後れしなくても大丈夫ですー
一瞬躊躇した伊澤だったが、橘に心強い一言を掛けてもらいほっと胸を撫で下ろした。
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