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これからも、ずっと側に

規則正しい寝息を立てて根岸にしがみつき熟睡する奏音と亜優の寝顔を交互に眺めているうち昔のことをふと思い出した。 ー伊澤、悠仁の頬が熱いんだ。俺、どうしたらいい?こんな夜中に診てくれる病院ないしー 30年前といったら、ちょうど携帯電話が誕生した年だ。播本から連絡用にポケベルを渡され、それで伊澤と連絡を取り合っていた。 至急電話。メッセージが届いて、当直だった伊澤はすぐに根岸に電話を掛けた。 「まずは落ち着け」 ー落ち着いてなんかいられる訳ないだろうー 「子どもはしょっちゅう熱を出すものだ」 ーえ?そうなのか?ー 「知恵熱って言葉聞いたことないか?」 ーいや、ないー 「朝には熱が下がると思うんだ。もしぐったりしているとか、けいれんを起こしたらすぐに電話を寄越せ。仕事が終わったらすぐにそっちに行く」 ーマジで?助かるー 長男の治療費を稼ぐのに精一杯で子育てはカミさんに任せっきりだった根岸。慣れない育児に悪戦苦闘し、ちょうどイヤイヤ期だった悠仁の子育てにかなり苦労していた。 「飯を全然食ってくれない。ママのご飯が美味しいって。そりゃあ、そうだよな」 悠仁を抱っこしながら、根岸は瞼を真っ赤に腫らし泣いていた。 テーブルの上を見ると手付かずの夕飯がそのまま残っていた。 「はじめから上手く出来るヤツはいない。根岸、台所を借りるぞ」 「悪いな、お前だって夜勤あけで眠いはずなのに」 「困ったときはお互い様だ。気にするな」 伊澤はにっこりと笑うと台所へ向かった。

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