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贖罪

「なぁ、根岸」 落ち着いた、低い調子の声で伊澤は根岸に話し掛けた。 「俺がお前の側にいればいるほど、悠仁の心はお前から離れていく。だから根岸……」 「聞きたくない」 声を荒げ言葉を遮った。 まるで駄々を捏ねる子どもみたいだに、嫌だ、嫌だと繰り返し、なお一層強い力で伊澤の背中に抱き付いた。 「ある暴力団が東南アジアのS国で役人と裏で手を組み、遊び場でぼろ儲けしているらしい。詳細を調べるためインターポールに出向する話しがあって、それを受けようと思う」 根岸の大きな体がほんの一瞬強ばった。 「2年か、3年、向こうで頑張ってみる。だから、お前は悠仁ととことん向き合え。男同士、腹を割って話し合え。血を分けた親子なんだ。振り出しに戻るがそれもいいんじゃないか。時間はまだまだある。一からまたはじめたらいいんだよ」 「……」 根岸は言葉に詰まり、何も言えなくなった。

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