13 / 14
贖罪
「なぁ、根岸」
落ち着いた、低い調子の声で伊澤は根岸に話し掛けた。
「俺がお前の側にいればいるほど、悠仁の心はお前から離れていく。だから根岸……」
「聞きたくない」
声を荒げ言葉を遮った。
まるで駄々を捏ねる子どもみたいだに、嫌だ、嫌だと繰り返し、なお一層強い力で伊澤の背中に抱き付いた。
「ある暴力団が東南アジアのS国で役人と裏で手を組み、遊び場でぼろ儲けしているらしい。詳細を調べるためインターポールに出向する話しがあって、それを受けようと思う」
根岸の大きな体がほんの一瞬強ばった。
「2年か、3年、向こうで頑張ってみる。だから、お前は悠仁ととことん向き合え。男同士、腹を割って話し合え。血を分けた親子なんだ。振り出しに戻るがそれもいいんじゃないか。時間はまだまだある。一からまたはじめたらいいんだよ」
「……」
根岸は言葉に詰まり、何も言えなくなった。
ともだちにシェアしよう!