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第2話
毎週金曜日の二十二時、人知れず扉は開かれパーティーが始まる。
そこは会員制の限られた人しか入れない、高級ホテルのワンフロアを貸し切ったバンケットルーム。フロアの奥には商談をするような個室がいくつかある。
客は一流企業の社長や御曹司とまさにセレブだらけ。
そんなセレブ達に混ざっても違和感がないようにと、正装に身を包んだ俺は偽名を使ってターゲットに接近する。
「いらっしゃいませ……若葉 様」
「あの方は……」
「奥へご案内します」
〝シャンパンを飲む会〟
表向きはあくまでそういう名目で開かれているパーティーだ。
さすがに本名の葉山航平 を名乗るわけにはいかず〝若葉〟という偽名を使い、潜入捜査をしている。
俺が扱う仕事は主に身辺調査で、簡単に言ったら探偵のようなもの。依頼されたターゲットを調査して報告をする。
簡単なようだけど、色々と厄介なことも多く、実は今回も色々とめんどくさい案件な気がしてならない。
「若葉くん、こんばんは」
「こんばんは、隼人 さん」
ターゲットの彼に会うのは今日で二回目。
その彼の名は藤堂隼人 、二十九歳。
数ある有名商業施設を束ねる藤堂グループの跡取り息子。
いつも黒いスーツに身を包み、清潔感のある黒髪はすっとした顔立ちによく似合う、見た目は好青年だ。
その彼の婚約者から、身辺調査をして欲しいと依頼を受けたのが事のはじまり。
「今日は何がいい?」
「そうですね……」
人が行き来するざわざわとしたフロアとは違い、奥の部屋は比較的静かで、彼に初めて会った次からは個室となるこの部屋を要求するようになった。
その方がゆっくりと話が出来るし、仕事上好都合だから。
ただし、俺にとっては都合があまりよくないことがいくつかある。
それは……
「……っ……ちょっとっ」
「どうした?」
「距離が近い……って……」
「近くないとキス……できないだろう?」
「いや、とりあえずシャンパンを……」
「飲むよ。これは挨拶代わりだから」
シャンパンを飲むと言う名目とは別に、こうして気に入った相手と夜のお遊びまでしてしまうことだ……しかも男同士で。
相手がノーマルでもゲイでも、誰がどうかは特に関係ないらしい。気に入れば酒を酌み交わす以上のことも、ここでは許される。
品定めをするかのように、気に入った相手を見つけると奥の部屋へと消えていく。
そこで何をしているのか……馬鹿な俺でもわかった。
下調べの段階では表向きの名目でしか情報が上がってなかったから、先週初めてここに来た時はびっくりした。
とりあえずはターゲットに気に入られようと必死にアピールした結果、なんとかこうして近づくことに成功したが……彼からのスキンシップは、先週よりも更に激しさを増していた。
「あ、の……っ……」
「いいから、こっち……向いてっ」
シャンパンを口移しで飲まされ、そのまま口を塞がれると舌を絡めながら彼が短く息を吐く。
「んっ……ふっ……んっ」
「もっと口開けてくれなきゃ、ずっと続けるよ?」
キスの合間にそう意地悪く、でも酷く甘く囁かれ、こんな筈じゃないのにと脳裏を過ぎりながらもどんどんと彼のペースに引きずり込まれていく。
「……っ……どう、美味しい?」
鼻に抜けるシャンパンの香りに酔いそうになっていると、濡れた唇を舐め取り熱く囁かれた。
「……はぁっ……はぁっ……」
容赦ないキスに、味わう余裕も返事をする余裕もない。
そんな俺を楽しそうに眺めながら、再び口に含むと同じように口移しされる。
そして、二人で座るには大きすぎる革張りのソファーがギシッと音を立てると唇は離れ、そのまま今日のシャンパンについて彼が語り始めた。
「今夜の銘柄は……」
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