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第3話

 断片的に思い出す、あの日の出来事。  十年以上も前のことだ、記憶が散乱しててもおかしくないが……。 「……葉山さん?」 「…………」 「ちょっと! 葉山さん?」 「え?! あ、ごめん、なんか言った?」  最近、土曜日の昼間はいつもこうだ。  パーティーから帰るのが朝方、それから仮眠を取って事務所で報告書を纏める。  必然的に寝不足にもなるわけで、雨宮の話もろくに聞いてないないことが多くなる。 「大丈夫ですか?」 「あぁ。ちょっと寝不足なだけ。で、なんだよ」 「あと何回行くんでしたっけ? セレブパーティー」 「あと二回だったかな」 「結構、情報集まりましたよね。もう行かなくてもいいんじゃないですか?」 「うーん……まぁ」 「それにターゲットにやましい事とかないんでしょ?」 「やましい事……ねぇ」 「あるんですか? 浮気とか?」  パーティーには裏の顔があることを雨宮には言っていない。彼にされていることももちろん。 (……と、言っても俺たちはまだキスまでしかしてないけど) 「……別に何もないよ」  あのパーティーの実態が雨宮にバレるのは時間の問題だろうけど、多分こいつには理解できない世界だと思う。だからギリギリまでは隠しておこうと決めていたから、今のところは嘘をついた。 「いいなぁ、仕事とはいえ毎週美味いシャンパン飲めて」 「お前は呑気でいいよな」 「どういう意味ですか」  美味いシャンパン飲めるけど、それだけじゃない……と、喉のここまで出かかったのを飲み込み、適当に返事をして話を切り替えた。 ** 「今日は元気ない?」 「え?」 「だって、今日は来てからずっと何かを考えているようだから」 「別に……何もないですけど」  今夜も彼と二人、個室でシャンパンを飲みながら時間を過ごす。 「そう? てっきり彼女と喧嘩でもしたのかと思った」 「いや、彼女なんていないですし」 「だよね、いたらこんなとこ来ないもんね。·····それに、ここに来るようになったのには理由があるんだろ?」 「……え」  隣りに座り身体を密着させながら、覗き込むように俺を見つめるとそんなことを言ってきた。  今日は何かが違う……と、気づいたのは少し前からだった。  挨拶代わりだといつもしてくるキスを、今日はされなかった。  それに、今日はシャンパンを一本空けたら帰ると言われたのだ。 「あ、そんな顔させるつもりはなかったんだ、ごめん。今のは聞かなかったことにして」 「隼人さんこそどうしたんですか? 何かあったんですか?」 「……いや、別に。でも、ちょっと疲れてるのかもしれない……」  明らかにいつもとは違う彼の表情……そして、気になる物言い。  不思議に思いつつ、大丈夫ですかと問いかけ、その表情をしっかりと捉えた時、何故か彼は俺の腕を取りそのまま抱きしめてきた。 「隼人……さ……ん?」 「あの頃より……」 「え……?」 「いやっ、なんでもない、ごめん……今日は帰る」  急な行動にびっくりしていると、彼が慌てたように身体を離し、急に帰ると言い出した。 (あの頃……より……って) **

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