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第4話

「なあ……」 「はい?」 「雨宮ってさ、昔はこうだと思ってたのに実はこうだった……みたいなギャップにときめいたりした経験ある?」 「は? 何の話ですか?」 「いや、ギャップ萌えってあるかってこと」 「まぁ、そっけない人がふと見せる優しさとか、そういうのはいいですよね」 「そこは共感してもらえてよかったわ」 「いったい何なんですか」 「じゃあさ……苦手だった相手と久しぶりに再会して、実は話したらいい人だったってなったら、雨宮ならどんな気持ちになる?」 「そうだなぁ……もっといい一面が見たくなって、その人と仲良くなりたいと思うかも」 「そっか……」  依頼主から名前を聞いた時から気づいていた。  十年以上も前の話だからきっと向こうだって忘れてるだろうし、あれから年もとって顔つきだって確実に変わってる。  だけど、久しぶりにパーティーで彼に会った時、びっくりするくらい俺は動揺していた。  あの頃の面影が宿るその整った容姿は健在で、歳を重ねたことで更にいい男になった……藤堂隼人。  同級生だった俺と隼人が高二の時、俺はこの男から告白をされ、断った。  隣のクラスだった隼人とはそこまで親しいわけでもなく、それこそ会話をしたことなんて数回。  金持ちの御曹司だったことや、その境遇を利用した派手な女遊びの噂。どんどんと俺の中では悪いイメージだけが先行していった。  だから、屋上に呼び出され好きだと告白された時はからかってるだけど思い、その気持ちを拒絶し、卒業まで一切関わらないようにした。  当時は同性愛とか理解できなかったし、そもそも俺のどこにそんな魅力があったのかも不思議でならなかった。 「そういえば、あいつどこが好きとか言わないでいきなり好きだって言ってきたんだよな」 「葉山さん、誰かに告白でもされたんですか?」 「……い、いや」 「やだなぁ、秘密主義ですか? 恋の相談なら、いつでも受け付けますよ」 「彼女もいないくせによく言うよ」 「あ……」 「あぁ?」 「葉山さんだってくせにって使うじゃないですか」 「使うけど?」 「俺が使った時、文句言ってたから」 「そうだっけ?」 「そうですよ」 「悪かったな。つーか、もう帰って寝るから戸締りよろしくな」 「ちょ、ちょっと、葉山さんっ!」  寝不足の頭に雨宮の小言はキツい。これ以上話していてもバツが悪くなる一方だと悟った俺は、雨宮の呼びかけを無視し、事務所を出た。  一人歩きながら再び隼人のことを考え始めると、あの頃の記憶がフラッシュバックする。  告白を断った時も、分かったの一言だったし、やっぱりからかって楽しんでただけだったんだろうな……と、ずっと俺はそう思っていた。  なのに、こうして十年以上も経って再会して……  雨宮じゃないけど、毎週会って話をして彼をより詳しく知る度に誤解していた部分も多く、俺も隼人のことをもっと知りたいと思い始めていて、けど彼と関わっているのはあくまで仕事として。  今夜を最後に、俺はもうあのパーティーには行かないし、隼人にも会わなくなる。  隼人が実はそんなに悪い奴ではないと知ったのは誤算で、自分でもこんな複雑な気持ちを強いられるとは思ってなかった。 (依頼された時点で断ればよかったのかもな……)  気持ちが変化することなんてないと、どこかで自信があったのかもしれない。  だから、依頼も安易に引き受けてしまったんだと思う。 (とりあえず、今夜会って向こうがいつも通りに戻っていたら、このまま何も言わないでおこう)  それが一番いいし、お互い今更昔の事を蒸し返したってなんのメリットもないのだから。  だから、それが一番いい…… **

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