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第21話 流転 3

「これでは殿下を我が地にお迎えするのに、色々な改善の必要性を感じます」  ライエンは、ふむ、と考えこんだ。 「改善?」 「そうです。美しい雪と氷の代わりに、緑と花を! 宝飾品や蔵書のかわりに、多彩な人材と遊びを! 何かお心を掴むようなことを必死で考えなくては」  至極真面目に考えこむ様子に、私は思わず噴き出した。  声を上げて笑っていると、ライエンが真っ赤になって、下を向く。 「⋯⋯すまない。馬鹿にしたつもりはないんだ。ただ、おかしくて」 「いえ。謝っていただくようなことでは⋯⋯」  ライエンは赤い顔のまま、ごほん、と咳払いをした。 「先日は、殿下にお気持ちを急がせるようなことを申し上げました。何卒(なにとぞ)、お許しください。こちらには劣りますが、南には殿下のお慰めになるものが多数あると存じます。凍宮は美しい場所ですが、私には寂しく映ります」  ことん、と胸の中で居場所を得た言葉が歩き出す。 「さびしい、か」 「私自身が、南方で育ったせいもあるかと思います。人は自分に近い場所に馴染みを覚えるものですから。殿下、どうぞゆっくりとお考えください。殿下のお気持ちさえ決まれば、いつでもお迎えに参じます」  ライエンの言葉が、ゆっくりと心に沁みていく。 「⋯⋯ここから私を連れ出したら、エーリヒも罰されるぞ」 「宮中伯ではなくなるでしょうが、ロサーナに、私の持つ騎士団が不要とは思えません。地位を剥奪されても、生きる場所がなくなるわけではない。嘆く者もおりましょうが、殿下の廃嫡に不満を持つ者たちは味方となるでしょう。ご心配には及びませんよ」  にこにこと笑いながら、武門の長たる男は言う。 「エーリヒと話していると、なんだか、色々な心配が吹き飛ぶな」 「それはよかった! 殿下、騎士の人生はいつ終わるかわからぬもの。憂えるより笑え、が我が家の家訓なのですよ」  晴れ渡る冬空の太陽のような、そんな明るさがライエンにはあった。  彼と話していると、温もりが体に行きわたり、自分の足が大地をしっかり踏みしめているような気持ちになる。 「殿下、何事もお一人で抱え込まれますな。人は、一人で生きるのはつらいもの。痛みを与えるのも人ならば、慰めを与えるのもまた、人なのです」  穏やかな言葉に、ライエンが多くの騎士たちの尊崇を集める理由が分かる気がした。

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