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第37話 林檎 2

   体に何枚も毛皮を巻きつけられて、凍宮の庭を散策する。  自分の体が薄くて頼りないのはわかるが、これでは毛皮の方が重量が多いのではないのだろうか。  庭師に案内されながらレビンと来たのは、広大な庭の一角にある果樹園だった。 「一番古くて大きい木は、あちらです」  庭師の案内にさくさくと雪を踏み分けていくと、鳥たちのさえずりが聞こえる。  白い雪を被った中に、枝を大きく広げた木があった。きらきらと赤い実が輝いている。思わず歓声をあげた。  太陽に近い場所では、鳥たちが盛んに実をつついている。  すぐ近くの枝には、宝石のような実がたわわに()っていた。 「と、とってみてもいいだろうか?」  わくわくして振り向くと、庭師と侍従は頷いた後に呟いた。 「構いませんよ、殿下。今、(はさみ)(かご)をお持ちしましょう」 「そうなると、やはりもう一枚、上着があった方がいいですね」  二人がそれぞれに目当てのものを取りに行く間に、私は一人で木に近づいて行った。    陽の光を受けて輝く赤い実は、本当に宝石のようだった。  以前、東方の地域から献上された紅水晶を見たことがある、見事な細工物だったけれど、自然の美しさは、それ以上だ。  陽に輝く実は、高い所に、よりたくさん実っている。手を伸ばし、背伸びしてよく見ようとした時だった。  バサバサっという音と共に、上から白い固まりが降って──  ⋯⋯こなかった。 「えっ!?」 「⋯⋯ッッ」  ふわりと頭の上に温かい息がかかる。見上げれば、目の端に銀色の髪が映った。  私の真上には、樹上から落ちた雪の固まりを受けて、雪まみれな公爵がいた。  足元には、幾つも雪の欠片(かけら)が落ちている。 「ちょ、ちょっと待って」  私は慌てて、ヴァンテルに向き直った。肩と体にかかった雪を急いではらう。 「少し、しゃがんで! 頭にも雪がついてる!」  ヴァンテルと私とでは、背の高さが違いすぎる。無理やり身を屈めさせて髪に触れようとすると、笑っているヴァンテルに気がついた。     公爵は手を止めた私を見て、くすくすと楽しそうに笑う。銀色の髪に雪がついて陽にきらめく様が美しくて、つい見惚れてしまった。 「そんなに必死にならなくても大丈夫です」 「だって⋯⋯。濡れたら熱が出るだろう。あ、それは私だけかもしれないけど」 「平気です。それより、貴方が濡れなくてよかった。相変わらず、すぐに夢中になってしまわれる」 「⋯⋯そ、それは。あんまり林檎がきれいだったから」  戸惑って応えると、ヴァンテルは優しく微笑んだ。 「お贈りした林檎はお気に召しましたか?」 「うん! とても綺麗だった!! 昔、教えてくれたのはこの林檎のことだろう?」 「⋯⋯覚えていらしたのですね。そうです、いつかお見せしたいと思っていました」  私は、上着の内掛けの中にあった晶林檎の実を見せた。 「レビンが言っていた。北方地方の子どもは皆、晶林檎を探しに走るものだと。公爵家の屋敷にもあるのか?」 「ええ。古木が一本あります。本格的な冬が来る前に、実が赤く熟れたかをずっと気にしていました。ようやく色づいたので、少しでも早く殿下にお渡ししたかった」 「⋯⋯」  あんまり優しく言われたので、うろたえてしまう。そんなに気にしてくれているなんて思わなかった。  

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