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第49話 回想 2 ヴァンテル視点
そんな日々が、2年続いた。
ある日、王宮の廊下で呼び止められた。王太子である第一王子にだった。留学先から帰った王太子に、小宮殿に行くのかと問われて口ごもった。
第二王子の元に行くのを、王太子が疎んじているのは知っていた。
王太子が弟王子を溺愛していることを、宮中で知らぬ者はいない。留学を散々渋ったのも、弟に会えなくなるからだと評判だった。王太子は帰国した途端、小宮殿に出入りする者を厳しく制限し始めた。
何の感情も乗せず、冷え切った声が言う。
「公爵家の嫡男は、さぞ忙しかろう。将来に備えて山ほど学ばねばならぬことがあるはずだ。戯れは、ほどほどにすることだ。小鳥に関わっている暇など一時たりともあるまい」
──近づくな。
そう、言下に告げていた。
では、貴方は彼をどうするつもりなのだ。
誰にも会わせず、王宮の奥深くに囲い、風にも当てずに育てるのか。
父に付いて王宮の宴に参加した時。酔いさざめく人々の口から洩れた言葉があった。
「第二王子は、ものの役に立たぬ。風に当てれば倒れるとは専らの噂。いくら正統なお血筋でも、王太子殿下の代わりにはならぬ」
「元々、第二王子は籠の鳥よ。王太子殿下は、第二王子に会うことを誰にもお許しにならぬ」
「可愛い弟君は、このまま誰にも知られず、王宮の奥深くで飼い殺しか」
酒の酔いに紛れてこぼれる言葉に、耳を疑った。
第二王子の体の弱さは、誰もが知るところだった。確かに熱を出すことは多かったが、成長と共に少しずつ強くなってきている。
アルベルト殿下は、種を落とした場所で動けぬ花ではない。話すことも歩くことも出来る。飼われた小鳥のように、飛ぶことも知らずに、籠の中で生を全うさせるつもりなのか。
自分の体中の血が、一気に逆流するかのような衝撃だった。
長く病に伏したままの国王は、この先回復するのかもわからない。優秀な王太子は宮中伯たちの動きを掌握し、政治に少しずつ参加していた。
では、王が崩御されたら?王太子が玉座に着いたなら、第二王子はどうなる?
──もう、アルベルト殿下にお会いすることが出来ない。
クリス、と呼ぶ笑顔が脳裏に浮かぶ。
大事な大事な、私の王子。
自分の立っている足元が崩れ、ぽっかりと大きな穴が開く。
闇の中に、小さな姿が浮かんだ。
胸を抑えて、瞳を大きく見開いていた。
「⋯⋯これが、さびしい?」
寂しい、という言葉の意味すら教えてもらえなかった、小さな王子。
知らなければ幸せだったわけではない。もうずっと、その気持ちは彼の中にあったのだから。
寂しい気持ちの先を、共に考えたかった。
「ここに来てくれた時は、ふわっと胸が温かくなるんだ」
そう言われて、どんなに自分が幸せだったか。日々を重ねながら、繰り返し、伝えていきたかった。
⋯⋯王太子の思い通りになど、させはしない。
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