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第57話 決意 2

「どうにも手立てが見つからず、私は、貴方に汚名を着せようと思ったのです。貴方は、私達が求める王の素質を持っておいででした。賢く、慈悲深く、努力家でいらっしゃる。僅かな間にも、皆がそれを感じていた。だから急いだのです。多くの者の間で貴方のことが噂になり、より多くの者たちが貴方を慕う前にと」  ヴァンテルは、淡々と言葉を語る。 「貴方ご自身と全く関係のないことばかりを⋯⋯貴方を知っている者たちなら、一笑に付して相手にしないようなことばかりを罪にしました」  ヴァンテルと宮中伯たちが揚げた罪状は、全て身に覚えがないものだった。 「わざと、あの罪状を⋯⋯?」 「そうです。貴方は、誰も貴方の言葉を聞かなかったと仰った。誰も、少しも耳を傾けてくれなかったと。⋯⋯当然です。貴方の言葉を聞く必要はありませんでした。宮中伯たちは皆、そんな罪状は一つもないことを知っていた」 「知っていた?」  ヴァンテルが頷く。 「宮中伯たちの前で、貴方のご病気を侍医から説明させました。病を公に発表すれば、陛下がお倒れになったままの今、王族の威信に関わる。次々に王位継承者が病魔に襲われたなら、王族そのものを人々は不安に思うでしょう。ロサーナの国王は太陽の化身でなければならないのです。宮中伯たちの判断は早かった。個人の罪にして、凍宮に閉じ込めることに同意しました。⋯⋯陛下も、報告に伺った時に、廃嫡に同意なさったのです」  父は言った。  彼らを許せ、と。  彼等の罪は自分の罪だと。 「父上は、だからご自分の罪だと仰ったのか⋯⋯」  叔父上が言われた言葉を思い出す。 『陛下はずっとたくさんのものを背負って来られた。あの方にとっての一番は、いつだってこの国でした』  我が子よりも、自分よりも。父は常に、ロサーナの為に生きてきた。  年齢よりもずっと老いを感じさせる体の中で、瞳だけは強い意志の光を宿し続けている。  私は、ヴァンテルに重ねた自分の手を離す。  真実を知りたがったのは自分だった。ずっと、彼の気持ちが知りたいと思っていた。まさか、こんな話を聞くことになるとは思わずに。 「⋯⋯あの日、お前が言った最後の言葉だけは、本当だったな」  うつむいていたヴァンテルは、顔を上げた。 「私の些細な力では、ロサーナを御することは出来ない。それだけは、真実だ。⋯⋯本当に、自分の体さえ少しもままならない」 「アルベルト殿下、私は⋯⋯!!」

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