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第67話 紅痕 4 ※微

 ヴァンテルは、私の額にほつれて張りつく髪を、そっと指で摘まんでどけた。労わるように優しく口づけが落とされる。 「⋯⋯クリス、ごめん。心配を⋯⋯かけた」 「同じ心配でも、貴方の側でお姿を見ながらする心配は何でもありません。少々、心臓には悪いですが」  今までは、伝わってくる話を聞くばかりだった。ご容態を思い浮かべるだけで、何も出来ない自分が口惜しかった。そう言って、苦く笑う。 「お目覚めになってよかった。侍医はお疲れがたまっていらしたのだろうと言っています」 「クリスに⋯⋯言われた通りだった」 「⋯⋯何度も、うなされておいででした」  夢の残像がよぎっていく。  熱と共に蘇るのは、甘い蜜の記憶だ。  死に絶えた村に、死出の旅に出た者たち。   細かく体に震えが走り、冷や汗が出る。ヴァンテルは横たわった私の体を、包みこむように抱きしめる。 「ここにおります、アルベルト様。貴方を脅かすものは、何もない。例え死神が現れても、私がお守りします」 「⋯⋯クリス」  私はヴァンテルの逞しい背中に手を回した。力は入らなかったが、胸を合わせると、互いの心臓の音が聞こえてくる。それは少しずつ少しずつ、安心を連れてくる。  体の震えが止まった時、どちらからともなく唇を合わせた。  自分の乾いた唇を、湿り気を帯びた柔らかさが包みこむ。唇を割って入り込んでくる舌は、自分よりずっと熱く、熱を持っている。 「──ッ、ンッ」  ゆっくりと、ヴァンテルの舌が口の中を探っていく。  他人の舌が口中に入って来るなんて⋯⋯。  上顎の裏側を舐るようにちろちろと舐め上げられて、手の力が緩む。頭の後ろをぐっと引き寄せられ、身動きできないほど強く抱きしめられた。  口の中をかき回されて、頭の奥がぼうっと熱くなってくる。どうやって返せばいいかわからないから、舌を追って触れたら、絡められた。 「⋯⋯んッ、は」  体の中にうっすらと熱が灯っていく。  口づけを繰り返すうちに口の端から零れる雫が首筋まで滴っていく。  ヴァンテルが唇を離して、首筋の雫を舐めとっていく。喉の下側の薄い皮膚をちり、と吸われて痛みが走った。 「⋯⋯な、に⋯⋯」 「⋯⋯印をつけたくなりました」 「しるし?」 「死神に連れていかれないように。⋯⋯そこでは、貴方から見えませんね」  ヴァンテルはそう言って、私の寝間着の襟元をはだけた。  長いこと日にさらしていない真っ白な肌が露になる。銀色の髪が目の前を掠め、胸の突起に唇が触れた。 「⋯⋯なッ」 「可愛らしい⋯⋯」  舌先で転がすように弄られ、体が跳ね上がった。 「や⋯⋯め⋯⋯クリス⋯⋯」  突起を口に含まれて、体の芯が熱を持つのがわかった。  じわりと肌が汗ばみ、ゆるりと起ちあがっていく。誰かに体を触れられて、こんな状態になったことなどなかった。  ──クリスに、わかったらどうしよう。  焦りで動悸が激しくなり、恥ずかしさに泣きそうな気持ちになる。  じん、と足先が痺れ、硬くなる芯にどんどん熱が集まっていく。  ヴァンテルは、突起を軽く吸うと唇を離し、すぐ上側の肌を強く吸った。 「んッ!」  先ほどと同じように、小さな痛みが走る。  長い指が、吸った場所をゆっくりとなぞった。指の先が離れると薄紅色の痕が現れた。まるで赤い花が咲いたように。 「これで、よく見える」  微笑んだヴァンテルは、ひどく美しくて恐ろしかった。私はなんとか体の向きを変えようとした。  昂ぶった芯が少しも治まらないことを、知られたくない。  様子がおかしいことに気づいたヴァンテルは、そっと顔を覗き込もうとした。  長い指が、上掛け越しに芯を掠めた。体が小さく跳ね、顔から火が出そうだった。思わずつぶった目には、じわりと涙が浮かぶ。  目の端に口づけがひとつずつ落とされる。そっと瞼を開ければ、ヴァンテルは、切なげにため息をひとつこぼした。 「⋯⋯本当に貴方は、食べてしまいたくなるほど可愛らしい」 「食べる?」  ヴァンテルは、答える代わりに私を強く抱きしめた。  

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