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第81話 報復 1

   トベルクの碧の瞳が、すぐ目の前にある。  こんなに間近で見たのは初めてで、深く透明感のある輝きはまるで宝石のようだ。  そう思った瞬間に、熱い舌が唇の間を割り開いて侵入してくる。  ゆっくりと口腔内を探り、舌を絡めとっていく。まるで優しく嬲られるような動きだった。  あまりの衝撃に目を開けたまま瞬きを繰り返すと、掴まれた手に力が込められる。  胸を叩いて離れようとするのに、厚みのある体はびくともしない。 「ん! んっ⋯⋯ふ⋯⋯」  後頭部を掴まれ、角度を変えて口づけられた。頭の奥ばかりが白くなって、ぼうっとする。  口の中の唾液を飲み込まれ体の力が抜けたところで、唇が離された。 「豪胆なのか、無防備なのか⋯⋯。この高さから飛び降りようとするくせに、身を守る術には弱いとは」  耳元で囁くように言われて、はっとする。今度こそ思いきり胸を突き飛ばした。  床に座り込んだまま、唇をごしごしと手の甲でこすった。 「な、なんのつもりで、こんなことを⋯⋯」 「可愛い殿下にお会いできて我を忘れました。哀れな臣下が褒美を望んだまでです」  トベルクは立ちあがり、私の前に来て跪いた。  碧の瞳の奥には炎が宿る。そこには怒りだけではなく仄暗い情念が透けていた。 「アルベルト殿下、貴方をもう一度この手に出来たとは幸いです。私と共に参りましょう」 「⋯⋯冗談じゃない、再び塔の中など真っ平だ! それに、お前が望む主君は私ではないだろう。お前自身がそう言ったはずだ」  どうしても玉座に就けたい者がいる、私さえいなくなれば、その者が王太子になるのを承知すると言った。だからこそ、私の命が欲しかったはずだ。 「ええ、確かにそう申し上げました。殿下がいなくなれば全てが上手く運ぶはずだったのです。そう、最初は確かにうまく運んでいた⋯⋯」  トベルクの口調が苦々しいものに変わる。 「どこで歯車が狂ったのか。あの筆頭が余計なことをしてきたばかりに⋯⋯」 「⋯⋯余計なこと?」  筆頭、の言葉に私は飛びついた。 「クリスが、何を?」 「おや、ご存じないのですか? こんなところにいらしたから、てっきり筆頭殿と示し合わせて逃げてきたのかと思ったのに」  自分でも顔色が変わったのがわかる。怒りがふつふつと湧いてくる。   「できるものなら、そうしたかった。元々二人で凍宮に行くはずだったのに邪魔立てしたのは誰だ!」 「⋯⋯ずいぶんと威勢がよくなられたものだ」    トベルクは逞しい腕を伸ばして私の顎を捉えた。その手に力の限り爪を立てると、凛々しい眉がピクリと動く。顎から離された手には血が滲み、甲から流れる血をぺろりと舐めた。

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