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第103話 和解 3

   翌日。  居並ぶ騎士たちの前で二人の宮中伯たちは、和解の姿勢を見せた。  ヴァンテルは、私が病床の父王を内密に見舞い、さらにはトベルクに対面した直後にいなくなった為、連れ去られたと思ったこと。  トベルクは、そもそも廃嫡に疑問を抱いており、王宮で再会した王子を凍宮に戻さず、本来の王太子の座に戻すべきだと思ったことを語った。  私は、宮中伯たち及び騎士たちを見回して告げた。 「それぞれの宮中伯たちがロサーナを、私を思って動いた結果が、この度の争いを生んだ。騎士たちよ、苦労をかけた。これは不運な衝突から生まれたことだ。剣を収め、速やかに己が領地に戻れ。知っての通り私は廃嫡された身だ。宮中伯たちの決定はロサーナの法である。このレーフェルトに戻った以上、凍宮から二度と動くつもりはない」  騎士たちの視線には動揺が浮かび、彼らは呼吸と共にそれを飲み込んだ。  宮中伯二人は、すぐさま王子に恭順の意を示し、騎士たちを(ねぎら)った。ヴァンテルがトベルクの領地で起きた火事を悼み、見舞いと称してすぐに支援を行うと告げた。トベルクが感謝の意を示したことで、場の緊張は一先(ひとま)ず終息した。  第一騎士団長ホーデンは、部下たちの戸惑いを後から伝えてきた。  アルベルト王子は、(はばか)りながら王太子の地位にふさわしいのではないか。廃嫡は何かの誤解ではないかと意見する者たちが多数おります、と。 「それでも彼らは法に従うだろう。新しい王太子が即位し玉座に就けば、そちらに人は流れる。旗の立つ方に、風の吹く方に人は向かうだろう」  ホーデンは、私をじっと見つめながらぽつりと言った。 「⋯⋯どこに旗が立つかは誰にもわかりませぬ」  トベルクが騎士たちとフロイデンに発つ日。  私は見送りの為に宮殿前の広場に赴き、道中の無事を祈った。  ヴァンテルは傍らで明らかに不快を示したが、私は笑って聞き流した。 「和解したのに、見送りの一つもしないのはおかしいだろう?」 「それはそうかもしれませんが!」 「それこそお前が笑顔を見せるのが筋ではないか? 筆頭殿?」  憤懣(ふんまん)やるかたなし、と怒り狂うヴァンテルもトベルクが最後の挨拶に来た時は、満面の笑顔を見せた。 「⋯⋯殿下、幾久しくお元気で」  トベルクは跪き、私の手の甲に口づけを落とす。私は自分の手を服の上から鎖骨にそっと当てた。  トベルクの瞳は一瞬強く見開かれ、私を見つめた。瞳の中に燻る炎を瞬き一つで収めた宮中伯は、それきり二度と振り向くことはなかった。

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