119 / 152

第118話 凍宮 5 最終話

  「空いている王位には、エーリヒ・ライエンを出せばいいでしょう。エルンスト陛下の息子ですから、ちょうどいい」 「エーリヒはライエン公爵家だけで十分だと言っている。筆頭職もあり、手が回らぬと。そういえば、トベルクと一緒にエーリヒも来るそうだ」  ヴァンテルは柳眉を逆立てた。 「筆頭のくせに、王都を留守にすると言うのですか!?」 「⋯⋯お前がそれを言うのか」  耐えきれずに噴き出した。  美しい男は不満げな様子を隠しもせずに、隣に座る。 「お前は時々、子どものようになるな」 「⋯⋯貴方の前でだけです」  そう言いながら、ヴァンテルは腕を伸ばして私を腕の中に抱え込んだ。  むっとしたままの男の頬を両手で引き寄せて、唇を重ねる。 「⋯⋯泉は十分に水を与え、いつも守ってくれました。おかげで、花は何の心配もなく咲くことが出来ました」  ヴァンテルは、長い睫毛を瞬いた。 「お前がくれた本の最後の言葉だ。花は泉のおかげで、森のどんな花よりも美しく咲いた。私は今、こんなに幸せなんだ。傷ついた国が再び穏やかな時を迎えるまで、出来ることがあるなら何でもしよう」 「⋯⋯殿下」 「そう思えるのも、お前のおかげだ」  被害に遭った土地や王都に多くの人手と物資を送り、ホーデンたちを連れて自ら救援に向かってくれた。 「⋯⋯クリスはいつでも、私の泉だ」 「では、貴方は私の花ですね」  ふふ、と笑うと、ヴァンテルは複雑そうな顔で言う。 「⋯⋯美しい花は虫を引き寄せるものです。全く、邪魔な者たちを」  ヴァンテルは、私を長椅子に押し倒した。  重ねた唇から漏れる互いの吐息が熱くなる。体の奥から湧き上がる欲が、全てを支配していく。  襟を開かれ、熱い舌で愛撫を受けながら荒い息が零れる。 「私の心を凍らせるのも、溶かすのも。⋯⋯お前だけだ」 「私は身も心もずっと、貴方に溶かされたままです」  愛しい男の首に手を回し、深い口づけを受ける。  ヴァンテルの手が触れる場所は、どこもたまらなく気持ちが良かった。 「⋯⋯ねえ、クリス。名を呼んで」  どんな時も、お前は優しく名を呼んでくれた。  甘えて呟けば、大好きな青い瞳がこの上なく優しく微笑む。 「アルベルト様、愛しています」  柔らかく与えられる快感に身を委ねながら、何度も囁かれる愛と名を全身で受け止める。  ⋯⋯何があっても共に生きて行こう。この命が続く限り。  泉の愛に包まれて、幸せに花が開くように。  お前の愛だけが、変わらずこの心を溶かすのだから。 【凍てついた薔薇は恋に溶かされる 完】

ともだちにシェアしよう!