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第118話 凍宮 5 最終話
「空いている王位には、エーリヒ・ライエンを出せばいいでしょう。エルンスト陛下の息子ですから、ちょうどいい」
「エーリヒはライエン公爵家だけで十分だと言っている。筆頭職もあり、手が回らぬと。そういえば、トベルクと一緒にエーリヒも来るそうだ」
ヴァンテルは柳眉を逆立てた。
「筆頭のくせに、王都を留守にすると言うのですか!?」
「⋯⋯お前がそれを言うのか」
耐えきれずに噴き出した。
美しい男は不満げな様子を隠しもせずに、隣に座る。
「お前は時々、子どものようになるな」
「⋯⋯貴方の前でだけです」
そう言いながら、ヴァンテルは腕を伸ばして私を腕の中に抱え込んだ。
むっとしたままの男の頬を両手で引き寄せて、唇を重ねる。
「⋯⋯泉は十分に水を与え、いつも守ってくれました。おかげで、花は何の心配もなく咲くことが出来ました」
ヴァンテルは、長い睫毛を瞬いた。
「お前がくれた本の最後の言葉だ。花は泉のおかげで、森のどんな花よりも美しく咲いた。私は今、こんなに幸せなんだ。傷ついた国が再び穏やかな時を迎えるまで、出来ることがあるなら何でもしよう」
「⋯⋯殿下」
「そう思えるのも、お前のおかげだ」
被害に遭った土地や王都に多くの人手と物資を送り、ホーデンたちを連れて自ら救援に向かってくれた。
「⋯⋯クリスはいつでも、私の泉だ」
「では、貴方は私の花ですね」
ふふ、と笑うと、ヴァンテルは複雑そうな顔で言う。
「⋯⋯美しい花は虫を引き寄せるものです。全く、邪魔な者たちを」
ヴァンテルは、私を長椅子に押し倒した。
重ねた唇から漏れる互いの吐息が熱くなる。体の奥から湧き上がる欲が、全てを支配していく。
襟を開かれ、熱い舌で愛撫を受けながら荒い息が零れる。
「私の心を凍らせるのも、溶かすのも。⋯⋯お前だけだ」
「私は身も心もずっと、貴方に溶かされたままです」
愛しい男の首に手を回し、深い口づけを受ける。
ヴァンテルの手が触れる場所は、どこもたまらなく気持ちが良かった。
「⋯⋯ねえ、クリス。名を呼んで」
どんな時も、お前は優しく名を呼んでくれた。
甘えて呟けば、大好きな青い瞳がこの上なく優しく微笑む。
「アルベルト様、愛しています」
柔らかく与えられる快感に身を委ねながら、何度も囁かれる愛と名を全身で受け止める。
⋯⋯何があっても共に生きて行こう。この命が続く限り。
泉の愛に包まれて、幸せに花が開くように。
お前の愛だけが、変わらずこの心を溶かすのだから。
【凍てついた薔薇は恋に溶かされる 完】
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