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春の来訪者 4 ※
「クリス。まだ怒ってる?」
「⋯⋯怒ってはいません」
私は座っていた椅子から立ち上がって、ヴァンテルの前に立った。体を屈めて恋人の膝の上に乗る。
眉間に皺を寄せた恋人は、眉を下げて少しだけ口元を曲げた。
美しい瞳をじっと見つめて、額と額をこつんと突き合わせる。
ヴァンテルの長い睫毛がわずかに伏せられ、瞳の奥で何かが揺れている。
「⋯⋯ごめん」
「殿下? 何故、謝るのです」
「寂しい思いをさせただろう?」
「そんなことは」
「あると思う⋯⋯。私だったら、お前が私以外の者を見ていたら嫌だ。クリスが他の者と踊ったら寂しい」
「アルベルト様⋯⋯」
ヴァンテルが虚を衝かれたように目を瞠る。
私はヴァンテルの頬を、両手でゆっくりと包みこんだ。
「お前が好きだ」
ヴァンテルはふうとため息をつき、背中に手を回してくる。
口づけを交わした後に、ゆっくりと抱きしめられた。耳元で途切れ途切れに声が聞こえる。
「私は相変わらず心が狭い男です。幾つになっても、貴方の行動の一つ一つが気になって仕方がない。貴方の瞳が、私以外の誰も見なければいいのにと思います」
「⋯⋯この目にお前以外の誰が映っても、心にはお前しか映らないのに」
長い指が、まるで大切な宝に触れるように優しく私の髪を梳 く。その感触が心地よくて、ずっと触れていてほしい。
私の気持ちとは裏腹に、髪に触れていたヴァンテルの手が離れてゆく。物足りなさに顔を上げれば、瞼に優しく口づけられた。
「クリス⋯⋯」
「アルベルト様、貴方が欲しい」
背筋に、ぞくぞくとしたものが走り抜ける。青い瞳の奥底に美しい獣が棲んでいる。それが顔をのぞかせる瞬間が、たまらなく好きだ。
頬や唇に、次々に口づけを降らせた後、ヴァンテルは私が身に着けていた衣装を一つ一つはぎ取っていく。
今日の衣装は、正装の為に細やかな飾りが多い。もどかしそうな顔をしながら丁寧にはいでいく男に、静かに情欲が湧く。
ヴァンテルの膝から下りて立ち上がれば、肩からするりと白い絹の衣装が落ちた。
身に着けているのは、耳や手首に嵌めた金の環、そして首から下がる細い鎖を繋いだ首飾りだけだ。
陽にろくに当たらぬ白い肌に吸い付くように、黄金の色だけが輝いている。ヴァンテルがごくりと息を呑む。鎖を取ろうと首に当てた手を、はたと掴まれた。
「⋯⋯クリス?」
「どうか、そのままで」
ヴァンテルは、金の環をつけた私の手首に口づけ、首筋から鎖に沿って舌を這わせた。
冷たいはずの金が触れた場所は、いつの間にか、じわりと熱を持つ。
「ん⋯⋯あっ」
私の前で膝を折り、ヴァンテルはゆっくりと体を愛撫していく。
金の鎖がかすめた乳首を口に含み、舌で優しくつつかれる。もう片方の乳首は、指と指の間で摘まむように弄られ、体が痺れていく。
天を向いていた私の雄に、そっとヴァンテルの指が触れた。雫をこぼす姿が恥ずかしいのに、うっとりした瞳で私を見つめてくる。
熱い口中に喉の奥まで含まれれば、たちまち雄は芯を持って硬く膨らんだ。
「っ! やめて、クリス⋯⋯」
舌を巧みに使って出し入れされ、耐えきれずに膝がガクガクと震えた。仰け反る腰を掴まれ、堪らずヴァンテルの髪を掴む。
「んッ⋯⋯! 離して、クリス。出ちゃう⋯⋯」
射精感が限界まで高まったところで、ヴァンテルは雄をひときわ強く吸った。
「あ、あっ!!」
視界が真っ白に染まる。
どくどくと迸 った熱が嚥下され、最後の一滴まで吸い取られる。びくびくと体が震え、一気に力が抜けた。
崩れそうになる体をしっかり抱きとめられて、ヴァンテルの腕の中で、はあはあと息をつく。
ヴァンテルは私が自分で雄を慰めるのを嫌がる。
欲を感じているのがわかれば、こうして口中に飲み込まれるか、美しい指で極めさせられるかだ。何度されても恥ずかしさに身体が震えて涙が浮かぶ。
「⋯⋯ああ、可愛い。もう貴方を全て食べてしまえたらいいのに」
ヴァンテルは、唇の端に零れた白濁を指で拭い、この上なく満足そうに微笑んだ。
美しい男は私の額に口づけを落とし、力の入らない体を続き部屋の寝台に運ぶ。すぐさま自分の身に着けた服を脱ぎ捨てて、私の上に体を重ねてきた。
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