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雛の王子 1 待人(3)
「⋯⋯一国の王子に、自室への案内を乞うなど聞いたこともない。何ですか、あの小僧は!」
「小僧⋯⋯」
私は美しい男の口から出た辛辣な言葉に、思わず噴き出した。
「案内しろと言ったわけではない、一緒に行って、と言ったんだ」
ヴァンテルの眉がつりあがった。
「⋯⋯赤ん坊ではないのですよ。アルベルト様!」
「クリス、それを言うならお前だって、一国の王子に対して相当な口の利きようだぞ。初めて国を出て旅をなさったのだ。緊張や疲労があったのだろう。⋯⋯殿下は可愛らしい方だ。お世話をする甲斐があるな」
憮然とした公爵の前に立ち、笑いながら首に腕を回す。
「叔父上に頼まれていただろう? 私からも王子を頼む」
首元に顔を埋めれば、たちまち抱きしめられた。
ヴァンテルは私を腕に抱いたまま、深く椅子に座る。
すり、と肌に頬を寄せると、小さなため息が一つ、頭の上から零れて来た。
「そんなふうに甘えられたら、貴方のお願いを聞かぬわけにはいかなくなります。どこでそんな真似を覚えてこられるのです?」
拗ねたように言う男の胸に体を預ければ、心地よさばかりが先に立つ。うっとりしながら、私はヴァンテルに告げた。
「⋯⋯お前が」
「私が?」
「全部、私に教えたのだろう? 素直に甘えることも、心のままに強請 ることも」
ヴァンテルの体がびくりと動いた。
「クリス?」
顔を見ようと目を上げれば、大きな手がそっと前を覆う。
「⋯⋯今、殿下のお顔を見たら自信がありません」
「自信? 何の?」
視界を遮られたまま、唇と唇が重なる。
唇の間を割って忍んで来る舌に心と体が震える。
水音をたてながらお互いの口の中を味わい、甘露のように唾液を飲み尽くす。
いつの間にかヴァンテルの手は私の頬に添えられ、熱を孕んだ瞳が目の前にあった。
「自分の心を止める自信がなくなります。貴方を好きなだけ味わいたくなる」
抑えた口調の中に在る熱を感じて、体の奥が甘く疼く。
自分からもう一度ヴァンテルの唇を味わって、絡めた舌を吸い上げた。
「明日の朝は早いと仰っていたくせに⋯⋯」
「まだ夜は始まったばかりだ。秋の夜は長いだろう?」
目尻を赤く染めた恋人に軽く睨まれたけれど、構わずぴたりと肌を寄せた。
私の体を撫でるヴァンテルの手が忙しなく動き、耳許の息が熱くなる。
背中に痺れが走り抜けた瞬間、体がびくびくと跳ねた。
「んッ、クリス⋯⋯。もっと」
「⋯⋯お心のままに」
優しい言葉と共に私の体は横たえられ、たちまち服が剥ぎ取られた。
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