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雛の王子 2 長夜(1) ※
寝台に行けばよかった、と思った時にはもう遅かった。
互いに身に纏うものはなく、ヴァンテルは私を後ろから抱きしめて離さない。
肌に触れる手は、まるで壊れ物を扱うかのように優しいのに、口づけはどこか性急だ。
耳朶から首筋に舌を這わせたかと思うと、項を強く吸い上げる。さらには吸った後に柔らかく歯を立てられた。ぞくぞくと背筋に甘い痺れが駆けあがっていく。
耳のすぐ下をもう一度舐められて、思わず声が出た。
「あッ!」
「⋯⋯アルベルト様は、ここを舐められるのがお好きですね」
はぁと切なく息を漏らせば、両手の指先が尖った胸の先をきゅっと摘まむ。何度も触れられているうちに、口づけを受けるだけでそこが反応するようになった。
爪の先で軽く弾くように弄られれば、体がびくびくと跳ねる。
「こんなに感じてくださるなんて」
嬉し気な言葉が無性に悔しくなって、思わず叫んだ。
「⋯⋯クリスだって!」
ヴァンテルの中心に硬くそそり立つものが、さっきからずっと腰に当たっていた。
「⋯⋯貴方に触れているのに感じないわけがありません。いつだって欲しくてたまらないのに」
肩を一際強く吸い上げられて、抑えていた声が漏れる。
ヴァンテルの唇が吸い上げた肌には、どれほどの紅い花が咲いているのだろう。
「クリス⋯⋯、だめだ。見えるところは、やめて」
「アルベルト様、『印』は見える場所につけなければ意味がありません」
首がちり、と熱くなった。⋯⋯今のは、間違いなく痕になる。
文句を言おうと思った瞬間に、口の中に右手の人差し指が入れられる。
「ンッ!」
軽く顎を捉えられ、ヴァンテルの指が口の中を蹂躙する。
喉奥から舌をぐるりとかき回され、思わず差し入れられた指を吸う。
「⋯⋯お上手です」
ヴァンテルは小さく息を吐き、もう片方の手で、起ちあがった私の雄にそっと触れた。とうに濡れそぼっている雄は、かすめる様に指先が軽く触れていくだけ。
ちゅくちゅくと必死で指を吸い上げれば、耳朶にヴァンテルの熱い舌が差し込まれる。
もどかしさと苦しさがないまぜになって体の中を駆け巡る。
⋯⋯もっと。
もっと、欲しい。
言葉に出来ずに体が震えて、じわじわと涙が浮かぶ。
「⋯⋯ふ、ぅ」
「アルベルト様?」
ヴァンテルが口の中から指を外して、私の頬に触れる。
「⋯⋯う」
涙がぼろぼろと零れて、長く美しい指先に伝う。
ヴァンテルは驚いたのか、私の体を慌てて自分の方に向けると、膝の上に乗せて強く抱きしめた。
目尻の涙を吸い、瞼に口づけ、慰めるように髪を撫でる。
「⋯⋯お許しを。あまりにお可愛らしかったので」
「少しも、悪いと思ってないくせに⋯⋯」
恨みがましく言えば、青い瞳が見開かれて、ヴァンテルは小さく笑った。
美しい瞳に情欲を滲ませたまま、唇と唇が重なる。
割り開かれた唇の間に入った舌は、指とは違って優しく口の中を撫でていく。
いたわるようにそろそろと、上顎の内側から喉の奥に触れる。
舌先にトントンと触れた後に包み込むように舌を吸われると、もう一度、涙が零れた。
ヴァンテルの長い睫毛が揺れて、抱きしめる腕に力が籠る。
腿に当たる剛直は、ますます硬く熱い。
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