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第5話

「ノートもよろしくねー」  休んだ分の授業は侑一に教えてもらって補っている。つくづく思うが、侑一がいないと生きていけないかもしれない。 「ああ、なるべく早く来るから大人しく待ってろよ、ハニー?」 「ダーリンは心配性ね!いってらっしゃい」  ちゅっと投げキッスをして、ウインク。  最近は新婚ごっこが二人の定番だ。というより、侑一のお気に入りコントらしい。ハニー、と呼ばれてダーリン、と脊髄反射で応えてしまうくらいには侑一のマイブームは続いている。 「じゃあ、また明日な」 「おう。待ってる」  庭先まで見送り、手を振ってやる。流石に普段通りに戻ってからは気恥ずかしいからキスはしない。 「あら、侑一くん、帰ったの?」  玄関で靴を脱いでいると、母親の由美子がキッチンから顔を出す。 「うん。明日は部活の朝練があるからさ」 「そうなの?ご飯くらい食べていって貰えば良かったのに」  家族ぐるみで付き合いがあるから、侑一が来ると母親も喜ぶ。  発情期にも家に来る意味も、きっと知ってはいるのだろう。 「あ、明日は侑一、泊めて良い?」 「もちろん良いわよ。輝は侑一くんに本当に仲良くしてもらってるわよねえ。彼女とかいないのかしら」  仲良く、に少し気まずい想いを抱くが、同じΩだ。発情期の苦しさはお互い分かっているからこそ、輝と侑一の関係に口出しはない。 「え?いない……んじゃないかな。じゃなきゃ俺のとこ来なくなるだろうし」 「そうかしら。侑一くんはαだし、モテそうよね」  モテる、のは確かに間違っていない。勉強もスポーツもできる侑一だ。やはりαらしい凛々しい顔立ちをしている。小学生のときから一緒にいるが、好ましい顔だということは常々感じている。だが、侑一からは色恋の話は一切聞かない。 「ええー、息子よりも?」 「あらやだ、輝は綺麗な顔だもの、侑一くんとはカテゴリーが違うわ。輝は好きな人はできないの?」  実の母親にまで男らしさを否定され、苦笑する。  父親の隆に似れば背が高い美丈夫になれたはずだが、残念ながら輝は母親似だ。線が細く、なよっとした印象は拭えない。 「別に、誰かと付き合う気はないよ」  強がりでも何でもなく、自分が誰かと深い関係になる姿が全く思い浮かばない。 「侑一くんは?母さん、侑一くんなら輝を任せられるわあ」 「どうしてそこで侑一が出てくるの。あいつは親友だし」  侑一とは発情期にセックスするが、そこには恋愛感情はなく、友愛の延長線上だ。 「そうなのね。今日はお父さんの帰り遅いみたいだから、先に食べちゃいましょ」  今日はカレーよ、と告げられて、お腹がぐうと鳴る。さっきまで運動していたのだから、空腹だ。 「うん。先にシャワー浴びてくるから」  母親の鼻歌を聞きながら脱衣所に向かった。    夕飯を終え、自室に戻った輝はすぐに先程侑一からもらった服とタオル、箪笥にしまってあった以前からの衣類をかき集めてベッドの上に放り投げた。  今夜はこれで眠れるかな、とひとりごち、自らもベッドにダイブする。  侑一の衣服は減ってしまって申し訳ない気持ちにはなるけれど、初めて侑一に打ち明けてからは必ずと言っていいほど発情期に入る頃にはこうして服や身の回りのものを貸してくれるようになった。    タオルを枕に巻きつけて、顔を突っ伏する。  普段なら、すぐに眠れるはずなのに、母親の言葉が頭によぎって何だか落ち着かない。  侑一に、彼女?  今まで考えたことすらなかった言葉だ。  誰が可愛いとか、付き合いたいとか、そういった類の話はしたことがないなと、ふと思う。  でも、明日また侑一は来てくれる。だから、大丈夫。  心にしこりを残したまま、輝は侑一の匂いに包まれながらやっと眠りにつくことができた。

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