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第7話
大学生になって一年が過ぎ、五月生まれの輝は二十歳になった。誕生日は侑一がケーキと共に祝ってくれた。八月に侑一が誕生日を迎えるから、そのときに一緒にお酒を飲もうと約束して。
「同じ学科のアイツ、松坂に気をつけたほうがいい」
アパートの一室。リビングで週末課題のレポートに取り掛かっていた輝に、侑一が突然話を切り出した。
「どうしたの、いきなり」
「アイツ、αだろう。輝をちらちら見過ぎだ」
麦茶を注いでくれたグラスを受け取りながら、突拍子もないことをいう侑一を見上げた。
「そうなのか?俺なんてモテないし、侑一の勘違いだと思うなあ」
松坂とは同じ学科ではあるから講義が被れば教室で見かけることがあるし、廊下で会えば挨拶くらいは交わす。ただ、何かしらのモーションをかけられた覚えはない。
確かに松坂はαだと公言しているし、一年の時からちらほらとΩの女の子と付き合っていると噂されてきた男だ。
モテても嬉しいのかわからないけれど、小中高と一つも告白されたことのない輝にとっては縁遠い話だなあと聞き流す。
「それでも、警戒して欲しい」
何を警戒すれば良いのか分からないが、一応は頷いておく。
「ん……」
気のない返事に、侑一は眉根を寄せたがレポートを終わらせることに意識を向けた輝は気づかなかった。
実際に、輝が他人から想いを寄せられたのは一度や二度ではない。そのことを知っているのは侑一のみだ。
輝が自分から人間関係を構築するタイプでは無いこと、恋愛に興味が無いことを侑一は熟知している。
ずっと隣にいることで、周りを牽制してきた。告白すらされないように。
そして、輝の目には侑一しか映らないように。
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