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第8話
今週が終われば、あとは試験のみで夏休みが近づいていた。
試験勉強でピリッとした緊張感と、もうすぐ長期休暇である浮足だった空気感が混ざったキャンパス内。
「輝さ、侑一に抱かれてるだろ?付き合ってんの?」
授業の終わり。いきなり松坂に話しかけられて、輝は驚きを隠せなかった。この授業は侑一は取っていない。
「えっ⁈」
「俺もαだからわかるんだけど、侑一からさ、輝の匂いめっちゃするときあるんだよね」
普段からそばに居て、あまつさえ発情期には体をつなげていればそりゃあそうだ、と思い当たる。
「え、あぁー、うん。発情期の時は手伝ってもらってるけど、付き合ってはないよ」
話題が話題だけに、つい声を顰めてしまう。周りにはもう教室に残っている生徒は殆どいないが、聞かれてしまっては非常に気まずい。
自分がΩであることを隠すつもりは全くない。けれども、性を人に開けっぴろに話したくも無い。
「そうなん?フツーに付き合ってんだと思ってた」
「や、侑は親友だから」
「親友とセックスするの?変じゃね?」
直裁的な言葉に戸惑ってしまう。別に初心でも何でもないが、この手の話はどうにも苦手だ。
「セックス、って……。それは俺がΩで、侑がαってだけだし」
「じゃあさ、相手は俺でも良くね。輝、可愛い顔してるし」
「はあ?何で俺が松坂としなきゃいけないの」
Ωだから。不特定多数でも良い。そんな考えには我慢できない。眉根を寄せて誘いを突っぱねようとしたが、次の言葉にそれは飲み込んでしまった。
「だってαだもん。それにさ、あいつに輝の匂いがついてちゃ、あいつだってカノジョできないよ」
ぱちくりと輝は目を二、三回瞬かせた。
「カノジョ?」
「あいつ、ムカつくけどモテんじゃん。サークルの一個上の先輩がさ、侑一の連絡先、俺に聞いてきたのよ。いっつも隣に邪魔がいて侑一に話しかけられないんだってさ。あ、これ俺じゃ無くて先輩が言った言葉そのままだからね?」
「それ、俺に伝えてよかったの?」
へらっと笑う。なんだかもやもやして、早く話を変えたかった。
侑一が、女の子にモテる。そんなことは小学生の時からわかりきっている。何度告白されてきたのか、もう数え切れないほどで、その度に断ってきたのも知っていた。
「正直、俺も思ってんのよ。お前たちいっつも二人でいるからさ、もし付き合ってないんだったら侑一に彼女さえできれば俺にもチャンスが回ってくるじゃん?」
ベラベラと喋る松坂に不快を覚える。本当に輝に好意を持っているなら、このアピール方法は間違っている。
「チャンスってさ、俺別に誰とも付き合う気ないよ」
付き合うってわからない。友達関係の方がよっぽど気楽で、続いていく気がする。
「それは侑一がいるからだって。あいつが輝離れできたら、輝もきっと俺のこととか見れるようになるよ」
「俺離れ……って」
「お前が近くでフェロモン出すから、侑一も仕方なくなるんだろ。本当は迷惑かもよ?」
「えっ」
俺を抱くのは仕方なく?迷惑?
思いもよらなかった言葉が胸に刺さる。
「一旦、離れてみろよ」
その言葉に、輝は応えることができなかった。
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